第9回日本横断川の道フットレース・・・⑤ | Born to Run

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人類は走るために進化してきたらしい。

 小諸グランドキャッスルホテルの4階にエレベータで上がると広い個室4部屋をレースの休憩所として確保してあり、空いている一室に入って仮眠を試みる。
中には同じように休憩されている方が一人居て、気持ちよさそうにいびきをかいていた。お風呂でたっぷり温まったので気持ちよく眠れることを期待しつつ布団にもぐりこんだ、眠りたいし眠いのに気持ちよく眠れず眠ったと思った瞬間に起きる、電車の座席の眠りのようなものを1時間ほど繰り返してスッキリしたようなつもりなり出発することを決める。
荷物がたくさんおいてある2階控室まで下りて出発の着替えと準備をして重い腰を上げる。
ちょうど今ホテルに到着した選手やスタッフとして活躍された岩下さん、これから帰るところだった吉岡さんと少しお話をしてホテルの玄関に向かい、すっかり気温が下がってきた外でずっと選手を待ってくれているスタッフの皆様に声をかけて先を目指すことにした。

少しだけでも眠れたので足が先ほどより軽く頭も多少スッキリしていたので調子よく走れるスピードはキロ7分程度のスロージョグだが、今までの連続最高走行距離203kmを大きく超えている私にはすごく走れている感じがする。

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ところどころで写真を撮ったり、コンビニに寄って上田市で美味しいラーメン屋さんはないか?を聞いたりしてのんびりと次のチェックポイントである上田城跡に向かった。小諸グランドキャッスルホテルを出てからというものほとんどの場所が市街地で、コンビニやジュースの補給などに困ることは無くて安心する。高度も低いし昨日のように凍えることも無いだろうと長野の夜の寒さを甘く見ながら進んでいた。

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本当にお城の影も形もない上田城跡を過ぎて一路長野市内へ、かの有名な善光寺を目指す。

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20㎞ほど調子よく走ったところでライトを点ける時間になってきた、おなかも空いたので目についた松屋に入りカレギュウ(大盛り)を頼む。

外に出て今まで通り走ろうとするが少し止まってしまっていた足は痛みでなかなか調子よく踏み出せない、暗くなってきたからなのか、お腹がいっぱいになったせいなのか異常なほど眠くなってきた。

寒さと眠さと痛みでここから長野市内までがとても苦しい記憶として残っている。コンビニで温めるものを物色し、ホッカイロ、マスク等を買う。立ち寄ったコンビニ前に居たウッチーさんにファーストフード店がこの先にあると教えてもらいそこで休もうと進んだ。ポテトとコーヒーを買い寝ようとするが寝付けない、身体が温まってきたので外に出る。
外に出ると強烈な眠気と寒さがまた襲って来て足元はフラフラ、旅館の様なところの入り口で寝そべって休むが寒くてすぐに起きる。「川の道」の厳しさを噛み締めながら、ブルーハーツの「月の爆撃機」を歌いながら進んだ。

♪いつでも 真っ直ぐ 歩けるか 湖にドボンかもしれないぜ
 誰かに 相談してみても 僕らの行道は変わらない
 手がかりになるのは 薄い月灯り

ぼんやりした頭でスマートフォンの地図を時々見つつ先を目指す、走っている事が奇跡のように眠い、足に何か刺さっているような痛みが意識を繋ぎ止める事に一役買っている。歩道が狭い場所は真っ直ぐ走る自信が無いので歩く。

今まで幾つかの厳しいと言われているレースに出た、ハセツネから始まり100km超、200km超、UTMF・・・どのレースもとっても苦しくて印象に残っている、でも苦しくて立ち止まって休んだことなど無かった。毎回何とか止まらず進むことは出来た。

長野市内まで後少しの所で身体が本当に動かなくなってきた、眠くて前に進むことが出来ない、幻覚ももう見飽きた。立ち止まったまま何分か分からないくらい動かなくなる、どこかの歩道橋を渡りながら階段で座り込む、大きな橋を渡っている最中にも崩れるように歩道に横たわった。
初めて味わう限界に近付いている感覚。これを探しに来たんだ。

大きな橋を渡ると長野市内に入ったと思う、随分食事も摂っていないし何処かで休みたくてスマートフォンで検索すると、きちんと眠れそうな漫画喫茶が駅前にある。
コースを外れて一旦駅前に走るが思いとどまって戻ってくる、ルール上は何の問題も無いが快適に眠れそうな場所には行ったら自分に負けたような気がした。結局少し先のデニーズでうどんを食べながら20分程休憩した。

地元の若い女性グループが楽しそうにお喋りしていた、ゼッケンを付けてうどんを食べながら目を瞑っている私のことを見て不思議そうに何やら話をしていたみたいだった。目を瞑っていたので少しだけ回復した、トイレに寄ってもう朝の4時近くになった長野市内に出る、もうすぐ善光寺があるので初の善光寺参りが楽しみだ。

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すっかり明るくなった善光寺への参道を歩いていると前からウッチーさんが来る、挑戦を続けている仲間を見つけて嬉しくなる。朝の挨拶を交わし善光寺へ、朝早いというのに人が何人か参拝に来ている。
お寺に賽銭をして来月行われる私の彼女の手術の無事な成功を祈願した。善光寺での健康祈願が1つの大きな目的だったので果たせて嬉しい。

来た参道を引き返し、飯山市方面へと続く国道をひた走る。少し進むと先程すれ違って足を痛そうにしながら進んでいるウッチーさんに追いつきエールを送る。少し休んだことと、朝になって明るくなったこと、ウッチーさんと挨拶して言葉を交わしたことで頭が大分スッキリと覚醒してきていた。足の裏は相変わらず痛むが走りと歩きを繰り返しながら先を目指す。突然後ろから中川さんが現れて朝の挨拶をしてきた、前のレストを先に出ていたしもうずっと先にいると思っていたけど、私と同じように市内のファーストフード店で休んでいたようだった。しばらく話しながら進むが私のほうがペースが遅いのでまた先に行ってもらう。

歩いたり走ったりを繰り返すが、どうしようもなく足が痛む、なんとかしようと靴を一旦脱いで靴下のまま歩いてみたら驚くほど痛みがない。だが、このまま靴下で進むとウルトラランニング用に買った靴下に穴が開いてしまう。

次に見えたセブン-イレブンで中川さんに追いつきまた少し話す、店内で靴下を買って、今履いている靴下の上から履き、その状態で靴を持ったまま走ってみた。驚くほど軽快に走れる、たまに鋭利な石を踏んで足の裏に痛みを感じるがさっきまでの痛みより大分マシだ。並走する中川さんも驚くほどのスピードで走れて次のチェックポイントまでは一気に走れた。

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何度か足の裏に突き刺すような痛みがあったので見てみると、案の定靴下に幾つか石の欠片が突き刺さっている。足の裏が少々腫れているような感覚があったので買った靴下をカバンにしまってまた靴を履く。相変わらず靴に締め付けられて痛いがそのまま裸足ランを続けることは出来そうに無かった。そこからはまたスロージョグペース、ペースが落ちると眠気も出てくる気持ちの良さそうな所を見つけると5分ほど寝転がって休み、またとぼとぼと走りだす。昨日までは源流近くの小川だった千曲川も立派な流れの河川になっている。

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民家が立ち並び商店や車の数も増えた所で飯山駅に到着した。駅舎に入ってみると園山さんと中村さんがお話しながら休憩していた。お二人ともまだまだ余裕が感じられ、楽しく話している。中川さんも少し前に到着して名物のへぎそばを食べに行ったとのこと。私は直前にあったセブン-イレブンの前で軽く食事を済ませてきていたので菜の花がたくさんあるというこの先の川沿いの道を楽しみに進むことにする。

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飯山駅を出て直ぐ通った「仏壇通り」仏壇屋さんばかりが何軒も並ぶ不思議な通りだった、独特な町並みが珍しく観光客が多いのもうなずける。町並みから外れると川沿いに出る、千曲川に並行して走る道路沿いに菜の花が見事に続いていた。

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菜の花を見ながらしばらく走り、道の駅のようなところで寝そべって休憩。観光客の家族連れに何しているのかを尋ねられ説明する、人と話すと意識が回復する。応援を受けると不思議なくらい嬉しくなる。また立ち上がり菜の花がそろそろ無くなってきた辺りにあったラーメン屋に入って食事、温かい味噌バターラーメンがとっても美味しかった。

体温が上がったからなのか汗が出るようになり、また調子を取り戻して走る。次のエイドまでは35kmほど、大分近づいたが遠い。残りの距離を気にせず117号線沿いをじっくり走る。至る所に残雪が見え豪雪地帯に来たことを実感する、レストポイントまで残り20km辺りでいつの間にか前を歩いていた中村さんと園山さんに追いついて少しお話する。元気が出てきたので小走りを始めて一人になる。

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何度か立ち止まりながら長いトンネルを抜け、残り10kmを切った所で商店に寄る。買ったパンを食べながら歩くと園山さんと中村さんが良いペースで小走りしてくる。あと少しなので歩いてばかりでなく付いて行こうと思いまた言葉を交わしながらお二人のペースに付いて行く。山道が町並みになってレストまで残り2kmまで来た、セブン-イレブンに寄るのでお二人には先に行ってもらい足の裏の腫れた部分に貼るために冷えピタと飲み物、休憩後の補給品としてチョコレートバーを2つ買った。

コンビニ袋を下げて117号線から左に曲がり人気のない道を越後鹿渡館目指して歩く、傾斜があり路面が暗く濡れているためあまり走る気にならない。しばらく行くと前から3人の応援者が走ってくる、もうすぐレストがあることを喜びながら進むと先程の3人がランナーと一緒に走ってくる。
今回「川の道」をUstream中継しながら走る小野さんが元気に来られた。この方はサハラやアタカマの砂漠マラソン、南極マラソン、萩往還等などのレース完走者でネット配信しながら挑戦を多くの仲間と楽しんでおられる方。

小野さんと同時にレストに到着して荷物を受け取り一先ず風呂に入る。お風呂のお湯は適度に熱くて、出てくる水は解けたばかりの氷の様に冷たくて気持ちが良かった。何とか足の痛みと腫れを治そうと、教わった水→お湯→水→・・・を繰り返した。後から楽松師匠が風呂に入ってきて少し話をする、「足痛くないですか?」と聞くと「こんなに走ってきて足が痛くなかったら、体のどこかが悪い証拠ですよ」と笑いながら応えてくれた、確かにみんな我慢してるだけなんだろう。

食堂に向かうとストーブが焚かれていて暖かく、共に苦しい道を走ってきた中川さん、園山さん、中村さん、小野さんが居たので食事を摂りながら話をする。ラスト100km余りを残してはいるが完走はほぼ確定的、先を急ぐことは無いので皆様ゆっくり眠ると言っていた。
美味しいカレーを2杯頂いて中村さんに色々な話を聞く。トランスエゾのこともこの時に聞いた。
「自分の足や周りの人達にこんなに遠くまで連れてきてくれてありがとう、もう少しだけ遠くまで連れて行って下さいって足にお願いするんですよ」というユニークで謙虚な考え方を教えてもらった。今後もこの大切な言葉を忘れずに胸に留めておこうと思う。

コンビニで買った冷えピタを足の裏の腫れた部分に貼って、ボルタレン湿布を膝と腿に貼る。もう時間を気にせず自然と目が覚めるまで寝ようと思い23時頃に床に就いた、寝る部屋として提供されていた部屋は広くて暗くて、布団が暖かくて数日ぶりに本当に気持ち良かった。

~つづく~