クラシックの歌曲について詳しくないのですが、大好きな歌があります。
それはシューベルトの「水の上で歌う」。
わたしの好きな映画の一つ「華の乱」の挿入歌で、とても印象的でした。

「華の乱」とは1988年の映画で(80年代の邦画は結構、大正・昭和初期が舞台の作品が多くて好きです)深作欣二監督、吉永小百合が与謝野晶子役、松田優作が有島武郎役、松坂慶子が松井須磨子役で、大正時代を駆け抜けていった人々の群像劇。(史実的には突っ込みどころがあるし、この歌と松坂さんの須磨子が見どころかもしれない)


(映画館で見ていないけど、パンフレットは古本市で買った)

わたしの手元にあるのはこの映画のテレビ放送を録画したDVDで、テレビで見た映画のエンドロールには歌手名の表示がなくて、ずっと気になっていたのですが、最近、映画と同じ歌手の音源をYouTubeで聞くことができ、とても感激した……!ようやくフルで聞くことが出来た……!
エリー・アーメリングというオランダ人のソプラノ歌手が歌っていました。

 

 (日本人歌手が、この歌を歌った動画は見当たらなかった…と思う)


映画の中で有島は晶子にこの歌の内容をこう解説します。(意訳)

雄大に煌めく波の上で
今日も私の時が流れてゆく
羽ばたく黒い鳥のように
夕闇の彼方に消え去ってゆく
このかけがえのない時の流れが
明日もまた止まってはくれないだろう
私自身がこの世に別れを告げる時まで


「淋しい歌ですのね、こんなに旋律は美しいのに」
「美しいものは、すべて淋しいものです」

 

有島はこの歌を一番好きな曲だといい、波多野秋子と心中する直前にもこの歌のレコードを流していた…。(実際はどうだか…)
ドイツ語の歌が耳慣れないせいか、不思議な響きに聞こえるし、この映画の影響もあって、この歌には死の影が漂うような不吉なイメージがまとわりつきます。

実際は夕暮れの舟遊びの情景をうたったものらしいのに、映画の影響力の大きいこと。綺麗だけれど儚げで不吉…それは大正時代のイメージに合致しているのかもしれません。


ちなみにエリー・アーメリングは1933年生まれ(そして1996年に引退し、今も存命らしい)、歌手が誰であれ、この歌のレコードが大正時代に実在したのか疑問ではありますが、エリー・アーメリングのこの歌なくしては、この映画の魅力は半減するのだから、そんな突っ込みは無粋でしょう。