インフルエンザの予防接種は、なぜ毎年受けなければならないのだろう?
それはインフルエンザウイルスが不安定だから。アメリカ、ヴァンダービルト大学の予防医学委員会会長ウィリアム・シャフナー(William Schaffner)氏によると、はしかや水疱瘡など変異しないウイルスもあるが、インフルエンザウイルスは遺伝子変異の頻度が高い。他の株と結合し、新しい変異体も定期的に生まれるという。
変異が常態であるため、前年に感染や予防接種の経験があっても、免疫系は今年のウイルスを必ずしも脅威と認識しない。インフルエンザワクチンも変異に対応して毎年改良しなければならないが、どのように変異するのか事前の予測が難しい。
仮に予測が的中したとしても、完全に予防できるわけではない。ワクチンの効かない希有な変異株に感染する可能性もある。米国疾病予防管理センター(CDC)は1月11日、今年のワクチンの推定有効率を62%と発表した。過去の平均値とほぼ同じだ。
◆戦略を変える
より効果的なインフルエンザ対策の研究が進められているが、まだ芳しい成果は出ていない。
「現在のワクチンは現時点では最高の対策だ」と、ミネソタ大学感染症研究対策センター(CIDRAP)のマイケル・オスターホルム(Michael Osterholm)所長は認める。しかし、「もっと効果的なワクチンが必要」だという。
ワクチンの改良は急務だ。世界保健機関(WHO)の世界統計によると、季節性インフルエンザに感染して毎年300万~500万人が重症化し、25万~50万人が死亡するという。CDCは、アメリカ国内で毎年3000~4万9000人が死亡すると推定している。
オスターホルム氏は2012年10月発表のCIDRAPのレポートで、「発想の転換」を訴えている。
従来型ワクチンには、ウイルス表面に存在するヘマグルチニンタンパク質の「頭部」が含まれる。ワクチンを接種した人体の免疫細胞「B細胞」は、このタンパク質と接触して抗体の作り方を覚える。実際のウイルスが侵入してきても、B細胞が即座に反応して感染を防ぐことができる。
しかし、ヘマグルチニンの頭部は変異が早く、古くなった抗体は新型ウイルスにまったく歯が立たない。研究者やバイオ企業は現在、株やシーズンの違いに左右されない安定的なタンパク質を探しているという。
この方法で万能ワクチンを生成できれば、予防接種を毎年受ける必要がなくなる。1918年の「スペインかぜ」は数千万人の死者を出したが、このような新型ウイルスの大流行も防止できる可能性がある。
◆時間はかかる
新しいワクチンが市場に出ても、免疫力は徐々に減退するため「一生の効力」は期待できない。イギリス、オックスフォード大学のサラ・ギルバート(Sarah Gilbert)氏は、「5年ごとの再接種が必要」と見ている。ただし、ワクチンの通年入手が可能となるため、病院での待ち時間は短縮されそうだ。
しかし、まだすぐには実現しない。アメリカ、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックのワクチン研究グループ責任者グレゴリー・ポーランド(Gregory Poland)氏は、「新型ワクチン候補はまだ初期の試験段階。お目見えまであと4~10年かかる」と話す。2012年10月のCIDRAPのレポートではあと15年、開発費は10億ドル(約880億円)と見積もられている。
現在のワクチン頼みの状況はしばらく続くが、近々改良版が登場する。
2013~14年のシーズンから、A型2種、B型2種に対応する「4価」ワクチンが入手可能になるという。すべてのワクチンメーカーが数年以内の生産開始を予定している。