ポイント



トランスサイレチン(TTR)の凝集・沈着は難病アミロイド病を引き起こすが、本疾患に対する有効な低分子医薬品はタファミジス(ビンダケル🄬)しか存在しない。



尿酸排泄促進薬ベンズブロマロンを基盤とした研究を展開した結果、タファミジスの効果を高めた新規化合物の創製に成功した。



開発した化合物はヒト血漿中で TTR に対して特異的に結合し、アミロイド線維形成を強力に阻害することから、新規アミロイド病治療薬として極めて有望である。




概要


富山大学学術研究部工学系 生体機能性分子工学研究室の豊岡尚樹 教授、岡田卓哉 助教、同大学の薬学・和漢系 構造生物学研究室の水口峰之 教授、横山武司 助教らの研究グループは、国指定難病※1 であるアミロイド病の新たな治療薬へと応用可能な化合物の創製に成功しました。


今回、新たに創製した化合物は尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロン※2の類縁体です。トランスサイレチン(TTR)※3は安定なタンパク質ですが、特定の条件下あるいは遺伝的要因によってアミロイド線維を形成し、末梢神経・心臓・眼などに沈着して重篤な機能障害を引き起こします。


これはアミロイド病と呼ばれ、難病に指定されていますが、本疾患に対する有効な低分子医薬品はタファミジス(ビンダケル🄬🄬)※4しかありません。


今回、新たに化学合成したベンズブロマロン類縁体はタファミジスよりも強く結合し、アミロイド線維形成を強力に阻害することから新たなアミロイド病治療薬として極めて有望であると期待されます。


本研究成果は、令和6(2024)年4月 26 日(金)に医薬品化学分野の権威ある米国化学会誌「Journal of Medicinal Chemistry」(オンライン版)にオンライン掲載されました。



研究内容


トランスサイレチン(TTR)は主に肝臓で合成される4量体タンパク質であり、チロキシンやレチノールの輸送を担っています。


通常、TTR は安定なタンパク質ですが、特定の条件下あるいは遺伝的要因によって4量体が単量体へと解離・凝集すると、不溶性アミロイド線維を形成し、末梢神経・心臓・眼などに沈着して重篤な機能障害を引き起こします。これはアミロイド病と呼ばれ、難病に指定されています(図1)。






TTR の約 95%が肝臓で合成されるため、本疾患の治療法として肝移植が有効ではあるものの、ドナー不足が大きな問題となっています。


現在、有効な低分子医薬品としてはタファミジス(ビンダケル🄬🄬)が臨床利用されていますが、病気の進行を十分に抑制できない場合があります。


したがって、タファミジスよりも効果の高い新たな治療薬の開発が強く望まれています。




2023 年、同研究グループは尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロンとベンジオダロンが血漿中の TTR に対して特異的に結合し、良好なアミロイド線維形成阻害効果を示すことを明らかにしました。


そこで今回、ベンズブロマロンを基盤とした新規化合物の設計およびその合成研究を行いました。約 50 種類の新規ベンズブロマロン誘導体を化学合成した結果、アミロイド線維形成阻害効果が強い化合物の創製に成功しました。


また合成した誘導体間での化学構造を比較したところ、活性を示すために必須となる部分構造を特定することにも成功しました(図2)。





ヒトの血漿中には TTR のみならず、さまざまなタンパク質が存在します。開発した化合物が TTR に対して特異的に結合するか調査した結果、ヒト血漿中の TTR に対して選択的かつ強力な結合力を示すことが実証されました。


したがって、今回開発した新規ベンズブロマロン誘導体は新たなアミロイド病治療薬として極めて有望であると期待されます。





今後の展開


本研究により見出された新規ベンズブロマロン誘導体はタファミジスよりも効果の高い新たなアミロイド病治療薬となる可能性を秘めています。今後は開発した化合物のアミロイド病治療薬としての有効性について臨床研究を通して検証していきたいと考えています。




【用語解説】


※1 難病

発病の原因が明確でないために治療方法が確立しておらず、長期療養を必要とする希少な疾患。


※2 ベンズブロマロン

腎臓において尿酸の排泄を促す薬剤のひとつである。痛風の第一選択薬であるアロプリノールが有効でなかった場合、あるいは過度の副作用が生じた際に使用される薬剤。


※3 トランスサイレチン(TTR)

アミロイド線維を形成するタンパク質のひとつであり、主に肝臓で合成される。甲状腺ホルモンであるチロキシンやビタミン A1 として知られるレチノールの輸送を担っている。


※4 タファミジス(商品名:ビンダケル🄬🄬)

TTR の安定化に寄与し、アミロイド線維の形成を阻害することによって、アミロイド病の進行を遅らせることができる低分子医薬品。



【論文詳細】



論文名
Development of benziodarone analogues with enhanced potency for selective binding to transthyretin in human plasma

著者
Mineyuki Mizuguchi1,*, Yusuke Nakagawa 2, Takeshi Yokoyama 1, Takuya Okada 2,3,*, Kanako Fujii 4, Kanoko Takahashi 5, Nguyen Ngoc Thanh Luan 2, Yuko Nabeshima 1, Kayoko Kanamitsu 6, Shinsaku Nakagawa 7, Shiori Yamakawa 8, Mitsuharu Ueda 8, Yukio Ando 9, Naoki Toyooka 2,3,*

掲載誌

Journal of Medicinal Chemistry (DOI: 10.1021/acs.jmedchem.3c02286)







富山大学 5月7日

https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20240507.pdf






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