京都大学iPS細胞研究所(CiRA)名誉所長の山中伸弥氏は4月23日、第31回日本医学会総会学術集会で講演を行い

大学では縁の下の力持ちである研究者をきちんとした形で雇用することができない有期でしか雇えず、ボーナスも退職金も出せないことが所長であった私の最大の悩みのタネだった

と振り返った上で、iPS細胞の実用化に向けた研究に取り組む研究者約100人を京都大学iPS細胞研究財団で雇用し、研究開発に取り組んでいることを明かした。




京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥氏



 同財団はCiRAとは別組織。山中氏が理事長を務め、研究開発だけでなくiPSの細胞の製造、品質評価、保管管理、さらには人材育成にも取り組んでいる。


 「財団の最大の使命は最適なiPS細胞を良心的な価格で届けることにある」とし

▽HLAホモドナー由来のiPS細胞のストック
▽HLAゲノム編集iPS細胞のストック
▽自家移植の技術開発

ーーの3つの取り組みを進めていることを紹介した。



 山中氏は「研究開発の勝負はこれからだ。マラソンで例えると、今は30km地点。ここから棄権する人が増え、ゴールが近づくほどきつくなる。ここからが本当のマラソンだ」とコメント。

「医学研究も日本がワンチームにならない限り、なかなか勝てない」と強調した。



角膜上皮幹細胞疲弊症治療に「期待」も

 この日の講演で山中氏は再生医療におけるiPS細胞の活用に関して、現在までの進捗を報告した。

 理化学研究所で研究を行っていた高橋政代氏が自己由来のiPS細胞を患者へ移植する臨床研究を世界で初めて実施したのが2014年のこと。

自己由来のiPS細胞を移植するには、皮膚・血液・細胞採取、細胞作製、品質評価、分化誘導、品質評価などに時間がかかるほか、当時は1人当たり1億円以上のコストがかかることが大きな壁となった。


 こうした課題克服のため、CiRAが取り組んできたのが再生医療用のiPS細胞のストック事業だ


同事業では日本赤十字社のデータベースを基にHLAホモドナーを見つけた上で、同意を得られたドナーの血液からiPS細胞を作り、ストックしている。

2015年から現在までに4種類の免疫型に対応し、日本の全人口の40%をカバーできる状態となっている。


 このHLAホモドナー由来のiPS細胞のストック事業においては、非営利機関には無償で営利企業には1本10万円で、研究開発のためのiPS細胞をそれぞれ提供している。

同事業ではこれまでに32の臨床用プロジェクト、70の研究用プロジェクトに細胞を提供してきたという。



 日本国内ではiPS細胞に関して現在、がんや糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷などをテーマに13の臨床試験が進められている


そのうちCiRAのiPS細胞が使われているのは、12のプロジェクトだ。

 山中氏は、特に角膜上皮幹細胞疲弊症に対する角膜移植に関する臨床試験について、「術後に患者の視力が回復するという劇的な効果が観察されている」と紹介。

「もしかすると最初にアプリケーションされるのではないか」と期待を込めた。




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m3.com 4月25日