9月27日、SCIENCE SIGNALINGに掲載されたものです


かなりの長文なので出だしだけ


内容的には洞察でしょうか


Science Signaling は、生物学におけるシグナル伝達に関する知識と情報を集約したAAAS(米国科学振興協会)が発行するScience の姉妹誌です



内容


プロテインキナーゼCγの変異は、キナーゼの自己抑制を阻害することにより脊髄小脳失調症14型を促進する


神経変性に対するPKCγの保護作用


PKCγの変異は、遺伝性神経変性疾患である脊髄小脳失調症14型(SCA14)の原因となり、通常、活性化脂質を感知するタンパク質の領域に見られる。


Piloらは、これらの変異がタンパク質内の自己抑制性接点を破壊することにより、キナーゼの基底活性を上昇させることを見出した。


この構造変化はまた、通常は異常なPKCの分解につながるはずの品質管理経路を損なった。


SCA14関連変異体を発現するトランスジェニックマウスでは、運動失調に伴うプルキンエ細胞の消失と、小脳におけるPKCγ標的タンパク質のリン酸化の増加が見られた。


今回の発見は、これらの変異がどのようにPKCγの活性を促進するかを説明するものであり、予後や治療への手がかりとなる可能性があります。


https://www.science.org/doi/10.1126/scisignal.abk1147




参考として、以前、群馬大学の平井宏和 教授が2008年、ジャーナル オブ セルサイエンス7月号に掲載されたアムステルダム大学(オランダ)フェアビークらの研究について書かれたものを



脊髄小脳変性症14型について


SCA14は常染色体優性遺伝形式を示す遺伝性脊髄小脳変性症の一つで、臨床的には小脳失調,構音障害,眼球運動障害を主症状とします。


発症年齢は5~60歳と多様(平均30歳程度)です。


日本にも患者さんが少ないながらいらっしゃいます。

小脳だけに障害が起こるタイプの一つです。


原因遺伝子は、タンパク質リン酸化酵素の一つ、プロテインカイネースCガンマ(PKCγ)です。

タンパク質はアミノ酸がつながったものです。


SCA14の患者さんでは、PKCγの遺伝子に変異(普通の人と違うところ)があり、その結果、PKCγの一つのアミノ酸が他のアミノ酸に変わっています。


アミノ酸が一つ変わるとPKCγの機能も影響を受け、その結果病気になると考えられますが、その詳細は分かっていませんでした。


この論文でフェアビークらは、アミノ酸が一つ変わるとPKCγの構造と機能がどのように変化するのかを調べた結果が書かれています。


タンパク質リン酸化酵素PKCですが、20数年前、私が神戸大医学部の学生のときに生化学を習った教授、西塚先生が発見されました(私の学位論文の審査員でもありました)。


この発見で、西塚先生は私が学生のときから20年以上にわたりノーベル賞候補になっていました。


ノーベル賞以外の著名な賞はすべて受賞されていましたが、残念ながらノーベル賞はもらえないまま数年前に亡くなられました。


PKCは大変重要な酵素であり、細胞分裂、神経のシナプス形成、記憶学習などいろいろな生命現象を制御しています。


PKCにはさまざまな種類がありますが、PKCγはその一つで小脳のプルキンエ細胞に豊富に存在します。


この論文では、アミノ酸が一つ変わるとPKCγの機能が低下すること、さらにそれに伴う細胞内の変化が詳しく述べられています。


この論文が出る以前から、アミノ酸が一つ変わるとおそらくPKCγの機能が低下するのだろう、と予想はついていたのですが、そのことが実際に示された論文です。


では、治療はどうしたらよいのでしょうか。


「PKCγの機能が低下しているのでPKCγの機能を上げる薬がよいのでは?」と考えがちですが、これはあまりよい方法ではありません。


なぜならば、PKCは非常にたくさんの細胞内の現象を制御していますので、PKCの機能を上げるにしても、極めてうまく調節しないといろいろな副作用が出てくるものと思われます。


PKCγの機能が低下すると、具体的にどのようなことが起こって病気になるのかさらに解明する必要があります。


PKCγ機能低下の結果起こる、病気の直接的な原因に対する薬剤が必要と思われます。


ひょっとするとSCA14でもプルキンエ細胞の自律リズムがおかしくなっている可能性があり(前回の記事参照)、それが運動失調の原因かもしれません。


もしそうだとするとEBIOが効くかもしれません。