徳島大学大学院医歯薬学研究部の森野豊之教授、和泉唯信教授、広島大学大学院医系科学研究科の丸山博文教授、国立病院機構呉医療センター脳神経内科(広島大学原爆放射線医科学研究所)の倉重毅志医師らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の骨格筋での異常に関する研究を行い、ALS患者ではALS診断基準を満たす以前から、骨格筋内にある筋内神経束にALSの病態において非常に重要なタンパク質であるTDP-43が異常蓄積することを明らかにしました。
【本研究成果のポイント】
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、脳・脊髄の運動ニューロンへのTDP-43の異常蓄積などの病理学的所見が知られていますが、がんのように生前に病理診断をする方法がありません。
そのため、問診・視診・触診・筋電図検査・MRIなどの画像検査を組み合わせて診断していますが、現時点でALSを早期診断する確実な方法はありません。
・筋力低下がALSの重要な症状であることから、脊髄の運動ニューロンの突起である筋内神経やそれと接合する骨格筋にもALS特有の異常があると考え、剖検・生検症例の骨格筋を解析しました。
その結果、ALS患者では病初期から骨格筋内の筋内神経束にTDP-43が蓄積することを見いだしました。
・今回の研究は、ALS患者さんにとって極めて重要な早期診断を可能とする新規バイオマーカーを発見しただけでなく、骨格筋や末梢神経の異常をターゲットとした新たな治療法の開発に繋がる可能性があります。
国立大学法人徳島大学 5月24日
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ALS患者の筋肉内神経に特定たんぱく質蓄積 広大などが発見
運動神経が異常を起こし全身の筋力が低下する難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)について、広島大と徳島大、国立病院機構呉医療センターは23日、患者の筋肉内の神経に、病気の初期段階からたんぱく質が蓄積することを発見したと発表した。
特有の異常として、早期診断や新たな治療法の開発につながる可能性があるという。
研究成果は米医学雑誌「ジャマ・ニューロロジー」オンライン版に掲載された。
ALSには現在、確実な早期診断法はない。
患者の体内ではたんぱく質「TDP-43」が脳や脊髄(せきずい)の運動神経に異常に蓄積することが知られているが、生前は組織を採取しての検査ができないため、問診や視診、筋電図検査などで判断する。
椎間板(ついかんばん)ヘルニアや頸椎(けいつい)症など、似た症状の病気と区別するのにも時間がかかるのが現状だ。
発症後1年で運動神経細胞が70%失われるという研究もあり、早期発見・治療が求められている。
筋力低下がALSの重要な症状であるため、呉医療センターの倉重毅志医師らは「筋肉内の神経にも蓄積があるのでは」と考えた。ALS患者と患者でない人の筋肉内神経を調べると、患者のみにTDP-43の蓄積があることを突き止めた。
筋肉の部位は問わないとみられる。
現在の診断基準ではALSと判断できない段階からTDP-43の蓄積があることも分かったという。
筋肉を1センチ角程度採取するだけで検査でき、取り除いた部分は回復する。
広島市内で記者会見した広島大大学院の丸山博文教授は「筋肉の検査で早期に確実な診断ができる可能性がある。診断方法に取り入れられれば」と説明。
徳島大大学院の森野豊之教授は「末端神経は中枢に比べて薬剤が届きやすいので、新たな治療法開発につながるかもしれない」と話した。
毎日新聞 5月24日