今回もアカデミー賞受賞作品を紹介する。
ポール=ニューマン、ロバート=レッドフォードが詐欺師を演じて見せた「スティング」。
相棒と組んで人をだましては小金を稼いでいた三流詐欺師がヤクザの金を盗んだことから組織に狙われることになり、相棒が殺されてしまう。復讐するために大物詐欺師のところに弟子入りし、組織のボスに「とどめの一撃(STING)」を与えるために大芝居を打つ。というお話。
とにかくポール=ニューマンがどえらいカッコイイ。さすがだぜ。ロバート=レッドフォードもいい感じだが、今回はよわっちぃ役回り。持ち前のさわやかさはよく現われている。
先が読めない展開と間の良さが際立っている。展開が唐突になりがちなのは韓流映画。冗長な作品が多いのはフランスかな。飽きさせない。焦らさない。このあたりのバランスは秀逸。そして、有名すぎるテーマ曲。この作品のテーマ曲だったなんて、知らなかった自分が恥ずかしいですたい。
とにかく、アカデミー賞受賞も納得の出来栄え。どんでん返しの連続に、予想を超える展開を見せるラストシーン。うーん、まんだむ。
ちぇけら
ビリー=ワイルダーのアカデミー賞作品「失われた週末」を紹介する。
ビリー=ワイルダーといえば「アパートの鍵貸します」や「麗しのサブリナ」などの作品を数多く手がけ、アカデミー賞に20回もノミネートされた名監督の中の名監督である。以前、私の拙い文章で「アパートの鍵貸します」は紹介させてもらった。そのときはビリー=ワイルダーがすごい人だとは知らなかったのである。
今回の作品はアルコール依存を題材にしており、主演のレイ=ミランドが自身の体重を落として不健康な男を演じている。頭はいいが、酒におぼれて才能を発揮できない作家という役で、科白に現れるユーモアはなかなかのもの。
酒のために次々と堕落していく主人公は、ドラえもんの道具を受け取って悪事を思いつき、不幸を招いてしまうのびた君そのものであり、次に主人公が受けるであろう分りきった仕打ちを見届けなくてはいけないドキドキ感がある。
物語の冒頭でアパートの白い壁に窓から酒瓶が吊るされているというシーンで始まる。この印象的なシーンがラストにつながっていくのだが、それは見てのお楽しみ。
物語の冒頭に佳境のシーンをほんの少しだけ見せておき、別の場所、時間から物語をスタートさせ、ラストに冒頭のシーンにつながっていくというのは良くある手法である(ケヴィン=スペイシー主演の「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」ではこの手法が教科書どおりに使われている)。今回はこれとは違った手法でまとめ上げられているので、このあたりも、この作品を楽しむポイントの1つであると私は考えている。
ビリー=ワイルダーの演出とレイ=ミランドの演技はまさしくアカデミー賞にふさわしい。この完成度で受賞していなかったとしたら、当時のアカデミー会員の目は節穴であるとしか言いようが無い。まさしく名作といっていい。
ちぇけら
私の尊敬するアルフレッド=ヒッチコック監督の代表作「バルカン超特急」。ヒッチコックがアメリカに進出する以前に作られた傑作である。
ヒッチコックらしい演出が随所に見られ、ファンにはたまらない(はず)。雪に閉ざされた山間のホテルで出会ったイギリス人たちが陰謀に巻き込まれていくという、サスペンスらしい設定で物語が始まる。撮影技術が拙かった時代に冒頭で雪に埋もれた山間の町の景色を撮るために駅舎やホテルの模型を作りカメラを回したという話はあまりにも有名である(今では空撮やCGがあるのでリアルにできるであろうが、CGは無味乾燥で風情がないので私は好きではない)。
さらに国家の陰謀という題材のために物語の舞台を東欧の架空の国にしている。特定の国を名指しで悪役にすることを避けたためであろう。舞台となる国の人々が話している言葉もどこの国の言葉でもない言語を使用しているという話を聞いたことがあるが、本当かどうかは定かではない(冒頭のホテルではイタリア語のように聞こえる言語を話しているし、その後ではまた違った印象の言葉を話している)。
とにかくうまい。小説や映画を描くとき風呂敷に例えられることは多いが、冒頭で広げた風呂敷をラストに向けてたたみ、完結させる様はすばらしい。これでこそヒッチコック。漫画「名探偵コナン」でも今作品のネタが使われたことがあるので、探してみるのも面白いかも。
ちぇけら
南米大陸を舞台にした男二人の友情と当時の南米の現状を描いたロードムービー「モーターサイクル・ダイアリーズ」。何の予備知識も無く、少し前に話題になったなぁなんて思って見てみたら、なかなか良い。
何も知らずに見ていくと、南米左派のプロパガンダ映画かなとも思えてしまう。反アメリカと南米ラテン民族の結束、アイデンティティを取り戻すことを訴えるような内容に、主人公が旅を通して南米の革命に傾倒していく様を描いている。
作品の最後で主人公がキューバの革命を成功させたチェ=ゲバラであり、この旅行の後革命家になったという記述が出てくる。なんと、チェ=ゲバラの話だったのか。わぁお、本当の本当にプロパガンダだったよ。
ゲバラといえば、かのジョン=レノンが「世界一かっこいい」とその生き様を称え、なぜかうちの親父が昔彼のポスターを部屋に貼っていたという経歴を持つ人物である(浦和レッズの応援団の旗にもデザインとして彼の似顔絵が採用されている)。
後から調べたところによると、実際にゲバラはこの旅行の日記を残しており、それを元に作品に仕上げられている。しかし、モーターサイクルと銘打ってあり、作品の中でもオートバイを駆っているが、実際はモペッドと呼ばれるペダルで走行することも可能なペダルつき原動機つき自転車であったそうな。もしかしたら作品に仕上げるために原作である日記よりもドラマチックに作られているかもしれない。
監督は「セントラルステーション」のウォルター=サレス。製作にロバート=レッドフォードが携わっているというので、少し驚いた。男二人でバイクに乗り、旅行を続けるという内容であったので、ゲイを題材にした作品なのかと思っていたらどうやら違ったらしい。百聞は一見にしかずである。いろいろと考えさせてくれる一本。
ちぇけら
久しぶりの更新。今回はイギリスから。
「リチャード3世」。イギリス王室を舞台にした陰謀劇なのだが、文学に造詣の深い人ならこれがシェイクスピアの戯曲であることはすぐにわかることだろう。私は知りませんでした。今回紹介するのは単に戯曲を映画化しただけではない、現代(と言っても1930年代だが)に舞台を移した、まったく違ったリチャード3世なのである。(つまりは全くのフィクション)
1930年代のイギリス王室。王位を継承するために、自分以外の後継者を次々と暗殺していく非道な男を描く。
やはり、見るべきところは主演のイアン=マッケラン扮するリチャード。この役で英国アカデミー賞にノミネートされた。納得ですね。リチャード3世の残忍で、いびつな性格、半身が不自由である様子を非常にうまく演じている。不自由な手足と表情、セリフなどがとてもよく調和しており、不気味な雰囲気がよく出ている。
それにリチャード自身ががカメラに向かって心の内をナレーションをするところなど、舞台を思わせるような演出も面白い。登場人物に軍服を着せることで部隊が20世紀であることを強調し、猫背で仏頂面のリチャードをヒトラーと重ね合わせているのが強く印象に残った。
この役はなかなか他の俳優にはこなせないだろう。イアン=マッケランに脱帽である。
ちぇけら
今日紹介するのは「我が家の犬は世界一」という作品。
見て強く感じたのはかなり見る者を選ぶ作品であるということ。ハリウッドのような仰々しい感動も派手なアクションも無く、ドラマいう単語とは程遠い。
主演は以前紹介した「活きる」で主演を務めたグォ=ヨウ。かなりの実力派で、今回はさえない父親役を演じているのだが、うだつの上がらない感じがとてもよく出ている。
北京に住む労働者層の一家が物語の中心で、この一家が飼っている犬がことの発端。北京市では犬を飼うのに許可証が必要なのだそうな。しかし、父親の稼ぎでは許可証を申請するための費用を工面することができない。さぁ、困った……
と、あとは見てのお楽しみ。なぜ、(正直に言ってしまえばさほど感動もしない)この作品を紹介しようと思ったかといえば、非常に日常的で中国の現実と社会がうまく描かれているのと、情けなくも父親であろうとする努力が演技からにじみ出ているなぁと思うからである。
日本ではほとんどの人々が中流層(と思い込んでいるだけで多くはプロレタリアートなのだが)であり、このような作品は作ろうと思っても作れない。そこを評価したつもりである。
感動だけが映画じゃないよ。現実世界にはドラマチックという響きが陳腐に聞こえてしまうほどのドラマが潜んでいるものである。
ちぇけら
久しぶりの更新。今回は情熱とパエリアの国スペインから。
紹介するのは「海を飛ぶ夢」という作品。この作品が封切られた時はCMなどもやっていてなかなか注目されていたように思う。
若いころに、事故で首から下の自由を失った男が尊厳死を認めてもらうために戦うという話。
科白に散りばめられたスペイン流のジョークなどを楽しみつつ、死を望む主人公とその家族などの科白の中に「人生」や「命」という言葉の意味を考えさせられる。
初めて見たスペインの作品であったが、やはりハリウッドだけが映画じゃない。いろいろな国のいろいろな文化の作品を見るべきだと実感した。そろそろハリウッド映画にも飽きてきたという方におすすめ。
ちぇけら
とうとう私のたいしたことない映画の感想ブログも60回を数えました。他にもたいしたことないことを少し書いていますが。
今回はロマン=ポランスキー監督の代表作「チャイナタウン」。主演はジャック=ニコルソン。浮気調査を請け負った私立探偵がその裏側にある陰謀に巻き込まれていくと言う典型的なハードボイルドもの。
主人公の視点を追及したこの作品。主人公の見ていないことは見ているものにも見えないという演出のしかた。言い換えると主人公が出てこないシーンはほとんどない。これが先の読めない展開を生み出している。さすがポランスキー。また、ジャック=ニコルソンの演技力、雰囲気がいい感じに組み合わさっている。この役は他の俳優ではなかなか難しいだろう。
ラストはポランスキーらしい終わりかたになっている。一度は見ておくべき作品の1つだろう。
ちぇけら
新しい年の始まりはフランスの上質サスペンスで。
「死刑台のエレベーター」。この作品を見るとサスペンスは白黒のほうが恐怖をそそるなぁと思う。カラー作品は綺麗に見えすぎてしまうので、「見えない怖さ」と言うものは出しにくく、「見えてしまう怖さ」に頼る部分が多い(と私は思う)。
愛し合う二人が電話で計画について話し合うシーンから始まる。もちろん見ている者には断片的な情報だけしか与えられない。これはサスペンスの常識。そして、男は愛する者のために完全な犯罪をやってのけた。はずだった。些細なことから計画は破綻し、次々と問題を引き起こす。まぁ、真相は見て確かめてくれ。言えるのはこれだけだ。
カラー映像ではないので「色」という部分において制約があるが、それを補って余りある「光」の演出。そして、恐怖をあおる音楽。作品自体のテンポがいいので、監督のうまさを感じる。現実離れしたトリックに頼らず、シンプルに物語が進行するので、これがテンポのよさにつながっているのだと思われる。演出のあちこちにヒッチコックを思わせる部分があり、こちらが彼の影響を受けているのか、ヒッチコックがこの作品の影響を受けているのかは分からないが、何かしらのつながりはありそうである。
最近は古い作品がDVDでたくさんリリースされているのでうれしい限りである。長い夜には往年の名作で楽しむのが「おつ」というものである。
ちぇけら
久しぶりの更新。最近忙しくて映画も見てなかったので、新鮮味が感じられる。
今日はB級アニメ作品「東京ゴッドファーザーズ」。昼間に(恐らくクリスマスの企画の1つなのでしょう)民放でやっていたので見てみた。正直、以前から見ようみようと思っていてすっかり忘れていたのである。それがたまたまやっていたので、棚からぼた餅である。
事件の始まりはクリスマスの夜。1人のまともなホームレス(まとも?)とオカマのホームレス、それにその2人と共に生活する家出少女がゴミ捨て場で赤ん坊を拾う。オカマはその子を育てると言い出す。それからはまぁ、いろいろだね。見てやってくれ。
ストーリーはなかなか面白い。アニメではお決まりのドタバタ劇の中に、ホームレスの現実が顔を出す。多くの子供が虐待されている現在の社会で、ホームレスのオカマのほうが子供を欲し、大切にしようと思っていると言う姿は製作者がこめたメッセージであろう。案外世の中そんなもんかもしれない。
細工、演出の粋な感じは「おっ?」と思わせてくれる。ジャパニメーションがまだ死んではいないということを実感した。「萌え~」だけがあにめーしょんではない。(私に言わすとそんなものはアニメーションでもなんでもないが。)
寒い冬に温まる作品を。
ちぇけら