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卒業式の日。
受付では、小学校からの粋な計らいで、子供達からの手紙が、サプライズで保護者に手渡された。
最後なんだからと、私はいつも以上に早起きをして、ひとりで三脚を担いで校門に並んで、それでも3番乗りだったんだけれど、一番前の、一番端っこの、パイプ椅子をゲットした。
式典が始まるまで、さぁ、今にしようか、ひとがガヤついてきてから開けようか、何となくポケットにハンカチが入っていることを確認するために、脇腹あたりをポンポンと叩いてから、えいっと空のデザインの便箋を開けた。
バックドロップをかましたい箇所が、この短い手紙の中に3つもあったけれど、私は柄にもなく、ポケットから白いそれを慌てて取り出す羽目になった。
そうだよ、帳の言うとおり。
こんなとこでポロポロ泣いてもさ、肩をさすってくれる人も隣にいないんだから、もう仕舞っちゃうね。
私しか知らない成長を感じられるような、ずっと見ていたくなるような、不器用な文字だったけれど、何度も読み返してなどいられなかった。
進学する中学校のブカブカの学ランを着た、誇らしげな馬鹿息子と、ふたり。
シャッターは誰かが、押してくれたけれど。
ふたりで、ほんと、
頑張って生きてきたよね。
私は家に帰って、普段着に着替えると、帳からの空模様を、卒業証書よりも何よりも大事そうに両手に抱え献上すると、神棚より、仏壇より、ずっとずっと高い白壁に、布テープで貼り付けた。
帳、手紙ありがとね。
…別にさ、
正直に話さなくてもいいんだけど。
あのおじさんじゃなくて、ママにはちょっと忘れられないひとがいるんだ。
帳もよく知ってるひと。
ほんとに、ごめん。
ごめんなさい。
だけどこれだけは、ぜったい忘れないで。
ママはほんとうに幸せだったよ。
今までも、これからも。
帳が、笑顔で居てくれるから。
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