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卒業式の日。


受付では、小学校からの粋な計らいで、子供達からの手紙が、サプライズで保護者に手渡された。


最後なんだからと、私はいつも以上に早起きをして、ひとりで三脚を担いで校門に並んで、それでも3番乗りだったんだけれど、一番前の、一番端っこの、パイプ椅子をゲットした。


式典が始まるまで、さぁ、今にしようか、ひとがガヤついてきてから開けようか、何となくポケットにハンカチが入っていることを確認するために、脇腹あたりをポンポンと叩いてから、えいっと空のデザインの便箋を開けた。



ママへ

僕は今日で、小学校を卒業します。そして、ママからも卒業したいと思っています。いつも思ってたよ。授業参観とか、みんなパパとママ、セットで来るのに、ママはいつも一人。だけど、一番明るくて、ひとりなのに、ぜったい虚しいのに、毎回どの行事も休まず来てくれた。お仕事二つもして、受験までさせてくれた。もうママも歳だから、選んでいられないと思う。ヤマでも何でもいいから、ママも幸せになってください。これまで12年間、育ててくれてありがとう。やっぱり、これからも宜しく。




バックドロップをかましたい箇所が、この短い手紙の中に3つもあったけれど、私は柄にもなく、ポケットから白いそれを慌てて取り出す羽目になった。


そうだよ、帳の言うとおり。

こんなとこでポロポロ泣いてもさ、肩をさすってくれる人も隣にいないんだから、もう仕舞っちゃうね。

私しか知らない成長を感じられるような、ずっと見ていたくなるような、不器用な文字だったけれど、何度も読み返してなどいられなかった。


進学する中学校のブカブカの学ランを着た、誇らしげな馬鹿息子と、ふたり。


シャッターは誰かが、押してくれたけれど。


ふたりで、ほんと、

頑張って生きてきたよね。



私は家に帰って、普段着に着替えると、帳からの空模様を、卒業証書よりも何よりも大事そうに両手に抱え献上すると、神棚より、仏壇より、ずっとずっと高い白壁に、布テープで貼り付けた。




帳、手紙ありがとね。



…別にさ、

正直に話さなくてもいいんだけど。


あのおじさんじゃなくて、ママにはちょっと忘れられないひとがいるんだ。


帳もよく知ってるひと。


ほんとに、ごめん。




ごめんなさい。


だけどこれだけは、ぜったい忘れないで。


ママはほんとうに幸せだったよ。

今までも、これからも。


帳が、笑顔で居てくれるから。


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fuki