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あの日の動揺が今では懐かしい。




忘れられないセックスだった。


3日くらい後を引くなんて、よっぽどだと思う。



出端(ではな)から今にも、というほどのコタの熱い熱い真っ直ぐな思いは、私のジーンズの分厚さを物ともせず、私は、可哀想というか居た堪れなくなり、うん、ここで終わってもいいかと、口の中で一度スッキリ落ち着かせてあげたのだけれど、その辺りから、ちょっと私の調子が狂ってしまった。



三咲しか知らないはずのコタを、確かに甘く見ていた。


一言で、経験より、あれは多分医者としての知識が生きたようなセックスだった。



同年代の男性にはない、力任せの貪る様な動きも、力の強弱が絶妙で決して痛くはなかったし、上手く誘導されて私が不本意に上になってしまった時も、コタは私の全体重をテコの原理のようなもので両腕を回し込むように浮かせて分散させてきて、その焦点のような快楽部分の海に集中出来るよう調節してくれた。



「声、ききたい」



終始、コタが言葉を発したのは、それを一度か二度くらいだけで、普段からそうなんだけど、余計な事は何も言わず、多分少しだけ小っ恥ずかしさを残した真っ直ぐな目で、縋(すが)るように攻めるようにその適度に潤った瞳孔を戸惑う私に見せつけてくるだけだった。



洸太。


私もききたいよ、君の声。

君の、ほんとうの気持ち。


それがもしあるとしたら、だけど。



私の知る限りの、いつもの洸太先生じゃなく、医師としての先生を感じさせてマウントして堕としてくるなんて。コタの倍の数の波に攫(おそ)われてしまって、シュンと萎縮した私はもう、君に溺れない為だけに意地悪な空から目を逸らすのに精一杯だった。



とても狡い、洸太だけの香り。


今思えば、

重曹なんかじゃ消せるはずもないのに。



それにしても


何かがとても新鮮で


それがとても愛おしかったのに


それが何かがわからない


不思議とカラフルで


たぶん時間のようなものだった


恒常的には決して 色が無い何か




その何かがわからない私は、きっと



コタよりもずっとずっと


子供なんだと、思う。


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