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「お、いーの持ってんじゃん!ちょい借りるわ!」
ルービックキューブでマウント取ってくる人間がいるなんて。
2×2×2を、17秒。
17、17…、17。
だけど、コタを意識するようになったのは、この瞬間からだった。
男として、というには、流石に気が引ける。
だってコタは、17も年下なのだから。
それにしてもそれは、ずっと見ていたくなるような、華麗な手捌きだった。
大学生の家庭教師なんて、所詮バイトバイト。
名門中高を卒業した、現役の医学部生とはいえ、その頃まではそう思っていたし、正直、結果を残した今でもずっと、そう思っている。
ペットボトルの水の差し入れに、コタがまだ居る子供部屋に入ったあの日。
一人息子の帳(とばり)が先生のipadを見ながら必死に宿題を書き写していたので、その日の授業はひと段落したようだった。
クルクルと回すカラフルな不完全体を、時間切れと言わんばかりに書棚の一番上に戻し置きながら、もう一方の手で、500mlのそれを私から「あざす」と会釈して受け取った“バイト教師”は、最初の頃なんか、別人みたいに偉そうだったっけ。
「あ、これ、次回までこのまんまにしといてくれる?」
「あっ、はい。」
小6の息子は素直に返事をしたけれど。
(は?)
(はい ??)
…これ、ウチのなんですけど。
先週、「息抜きに練習してみたい」と珍しく目をキラキラさせてせがんで来たものだから、即ネットでポチしてあげて、届いたばっかの、私の、愛する息子の。
…っとに。
帳(とばり)は、次回のカテキョーまで、自分のルービックキューブを触れないのか、、という母としてのモヤモヤ…。
こんな風に、大小あきれ返ることが多くて、まるで二人目の子供が出来たような感覚でいた。
これを無邪気というのか、何なのか。
少し睨み付けるように、とぼけた笑顔の沖縄土産のパイナップルちゃんの横の正方形を見つめると、
もう、4×4×4の小人(こびと)たちの帽子の色が整列しかかっていた。
(へー、頭のいい人って、ルービックキューブ得意なんだな、やっぱ。)
どんな偏見かはわからないが、40歳のおばちゃんは、これを〝ルービックマウント〟と呼びましょう。
それはさておき、洸太(こうた)先生。
中学受験に於いて小6の夏休みは、“天王山の夏”。
よろしく、頼みますよ。
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