『 HER 』



突き放しても

サカバンバスピスのような

惚けた顔をして

戻ってくるところ


特に要求はしてこないフェルメール

耳目だけは 難解な永遠の美

全面的に 誰よりも不憫に

抱いてやる


驟雨と花曇りの日に

愛に変わろうとすると

翻っては


万引き犯のように

紙袋を抱え慌てて帰っていく


知りたいと思ってしまった

玄関の指紋認証がきかなくなるほどの

硬い指先への虐待を


ハーフアップのゴムを隠す

鼈甲のヘアカフスを

君の、忘却を見つめている


主と従の逆転の表象は

春の諧謔にも似ていた