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 当時、大手の介護サービス会社の下請けで請求事務をしていた麦は、自分より後から結婚した後輩が続々と妊娠・出産していくのを何人も笑顔で見てきた。

本音を言えばそれが、知らず知らずのうちに深層ストレスになっていたのかもしれない。


わかっていた。


これは、また押し寄せてきた〝逃げ〟の波だ。

仕事自体ではなく、別のストレスからの。


日本を離れるという、表面上は格好さえ良い三十ニ歳の“決心” は、三十ニ歳の、その歳特有の、彼女の "逃げ”でもあった。



もうひとつ確かなことは。


共働きが主流となる現代に於いて、片方が片方の仕事を捨ててまで片方の仕事の為に海外まで付いて行く、という家族帯同が、麦と大祐にとっては、決して、「子作り目的」ではなかった、ということだ。


正直、夫への嫉妬はあるし、浮気防止の目的は大きかったけれど、その時はもう既に、この妻はそういう面では脆弱なディフェンスになっていた。


無論、海外で働く夫を食事や生活の面で支える、という目的も、メイドがしっかりと準備され、テレビ電話で簡単に家族が繋がるこの時代、嘘っぽすぎて大きな顔をして言えたものでもなかった。



「新婚さんいらっしゃい。に出れるのは、結婚後3年以内の夫婦なんだから、その間は一応、新婚ってことじゃない?」


小中高一緒だった友達の礼子が、そんなことを言ってたっけ。


ゆえに、私の中での常識は、新婚期間とは、俗に3年くらいとなっている。



ちょうどその新婚期間が過ぎたころ、



「むっちゃん、ほら、一度流産したでしょう。それは“体質”なんだからね、まだまだ大丈夫、不妊治療なんかしなくても」



不妊治療の「ふ」の字も出してないのに、憐みの表情で慰めてきたのは、義理の母だった。



決めつけている。


こういう人は、不妊症の原因が“男性”側にもあり得るということを単に知らないのか。


それとも、非があるのは何につけても「嫁」の方であって、自分の産んだかわいい息子であるはずがないと…?



(遠回しに、“不妊治療を始めたら”って意味か…。)



 麦は、「あのひと変わってる」とか「あのひとって常識ないよね」とかいう類のセリフを発する人間が昔から苦手だった。



自分の物差しだけで他者を判断する人。


自分に見えている世界だけが常識の範疇だと思っている人。


功成り名遂げた偉人の名言しか信じない人…。




大祐の母は、まさにその典型だった。


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普通にリピしてます

ずり落ちず、肩にハンガー痕も残らない、

シンプルな、コレ。

※ちなみ首は360度回りませんぶー