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「ご契約ありがとうございます。」
35年ローンが始まった。
桜庭(さくらば)川横のサイクリングロード沿いに、注文住宅を建てる予定だったけれど、輸入先の伝染病の大流行で資材の調達に見通しが立たなさそうだったので、売れ残っていた建売住宅に決めた。
下倉と一度は見学に行った物件の一つ。
ボロ屋敷も案外愛着が湧いてきた頃だったけれど、こぼれ種で今年も庭に咲いたオルレアの白いレースが、なんだか先にサヨナラと手を振っているようで気持ちの整理はついた。
改装したての東陽住宅サービスの来客ブースはこんなご時世にもかかわらず賑わっていた。
大祐と麦の前に座って、重要事項説明をしてくれたのは、下倉ではなく、上司の白井だった。
下倉なりの気遣いというか、身の引き方が彼らしく、少しだけ胸がチクリとした。
麦は、目の前の事務的なメガネ男の話が、予想通り途中から入ってこなくなった。
ちょうど4日前、下倉に呼び出された。
LINEのトークルームの画像は、PCのキーボード上に手書きのメモ用紙が貼られたもので、美明(みあけ)神社わきの地図が書かれていた。
その日麦は、午前半休をとり、念のため身ぎれいにして向かった。
「ありがとう。営業成績に貢献してくれて。」
桜の木の下で、一升瓶を二本差し出しながら、下倉が笑った。
「日本酒…?」
「あ、大丈夫。ちゃんと後で、新居の玄関先に置いておくから。」
これでも家探しはちゃんと勉強し、慎重に慎重を重ねてきた。
今思えば長かった。なんせ大きな買い物。
勢い任せではなく、堅実(けんじつ)に決断できたのは、麦にとっては成長を感じる誇らしい人生の選択だった。
都内も考えたけれど、結局この街に決めたのは、ひと言で多分、欲張りだから。
ちょっとした庭は欲しいし、予算内で駅近の方が、ね。
コンビニの近くも捨てがたいけど、第一種低層住居専用地域はなんてったって静か。
何より、下倉と何度か訪れた、この神社が気に入ってしまった。
欲張りですか? 女としても…。
足元のマンホールに鉄の花が咲いている。
蓮の花だった。
ベトナムの国花とこの街のシンボル花がおなじだなんて。
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中学受験直前に、指し棒を買いました⬆️
家中の壁にポスターやら、手書き付箋を貼りまくっていたので、ただ貼りっぱなしではなく、
直前期は、たまに娘とホームクイズツアーを行い、この指し棒を使って問題の出し合いをしていました
机上でカリカリ📖もいいけど、直前期や長期休み期間、ちょっとした親子の気分転換に、いかがですか?
(狭い隙間の落とし物拾いにも大活躍;笑)