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西の二つの眉がほころんだように少しだけ開いた。


たしか眉を上げる仕草は、手話では〝質問がある〟という意味だっけ。


「どれくらいぶりなの…?」


西は、胡坐をかいた上に麦を乗せたまま尋ねた。

「え、あ、うん…正直に言うね。驚かないでよ?」

「ははぁ…」

なぜか殿様のような深い返事のあと、

「ヨッと。」

西が話を遮るように、腰に回された華奢な両腕に少し力を入れ、麦の体ごと片腕で持ち上げたので、結合部を外されるのかと咄嗟に麦は体重をのせ返してしまった。
西は少し笑って優しいほうの右手で幼い後頭部を撫でた。

それにしても、こんがりと焼けた、おいしそうな腕。

背中越しのカーテンを器用に片手で開けるためだけだった。
黒いカーテンが西らしかった。
壁のフックに掛けられたマスクも漆黒で、まるで特攻隊のよう。

白くて丸くてまだ一次発酵中のパンのような肌を露出した麦の向こう側。

三〇センチ程のレースのカーテンだけになった窓は、昼下がりの優しい日差しを、麦の二つの乳房に恥ずかしそうに照らしては、ベンチタイムの腕がすぐに影を創った。


何で西が光を取り入れたのかわからないが、麦にも今更特別な恥じらいなどなかった。
女性慣れしている男は、最中(さいちゅう)に〝不可解〟な行為をよくするし、その奇妙さがまた猟奇的というか、たまらなかったりするものだ。
そんな光。

「四年…半。…かな」

西の耳元でボソッと答えた。

「は? …もうそれ、バージンじゃん。…だからか。あ、そ。なんか…」

「なんか、何?」

「いや、ヒルみたいだから、さっきから」

「はー、ひど。どういう意味?そんなに吸い付いておりません!」

麦は少しだけ小声になり、続けた。

「…そっちはどうなの?独身さん。」

「あ…、やっぱいいや。ききたくない」

 麦は、セックスをする時、必ず相手の事を一割以上は好きになるようにしている。
だから多分、聞きたくなかった。

 若い頃、全く、そう本当に、一ミクロも好きでない人とセックスをしたことがある。
そのときに感じた、ただの無機質な棒が入ってくるあの感じ。
それが感覚として忘れられなかった。

寧ろ不快な、あの感じ。

一割相手を好きになれば、こんなに気持ちいいんだ。

どれくらいぶりだろ。

 大学時代、撫養(むや)コーポというボロアパートで初体験した時以来、西の愛撫は柔らかくて気持ちよくて、何度も昇った。

 浮気とか不倫とかって、落ちていくとか墜ちていくとか堕ちていくとか表現されるけれど、麦は確かに上昇していた。

本当に、本当に、気持ちいい。
気持ちよくて… 泣けてきた。

あの日ひとりきりで流した涙に似ているようで、でもきっと真逆で…、幸せだった。
 
(大丈夫、一度だけだから。)


 ライチ熱がこもって蒸発出来ずにいた。

この四年半、ずっとずっと。

うまく言えないけど、出来れば、熱性痙攣を起こしてしまう前に、全身の毛穴を開いて欲しかった。

誰か。 誰でも…? 

内側からだろうか、外側からだろうか、どうやったら。


少なくともこのひとは、そとがわから濡れタオルをあてがってくれていた。

熱の逃げ道。
それには西は相手として充分だった。

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ユニセックスな香り。ふきの気分転換。