『西郷南洲遺訓』を読む(16)農業贔屓 | 池内昭夫の読書録

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渡部昇一氏は、西郷の農業贔屓からバブル崩壊時の住専問題を類推する。

《住専問題が平成7(1995)年からずっと荒れております。大蔵省は6850億の税金からの支出を求めた。銀行が貸したのを全部棒引きするということで、足りないところを税金から6850億払うということになったわけです。なぜそういう数字が出たかについてはまだ説明がついていませんが、説明がつかないままに、衆議院で半年以上もみにもんだあげく無修正のまま通り、なぜ6850億という数字が出たかをついに明らかにしなかった》(渡部昇一『「南洲翁遺訓」を読む』(致知出版社)、p. 49)

《これは農協系の金融機関を助けるためです。なぜ農協系の金融機関を助けなければならないかというと、日本の議員の大部分は農民票をあてにしているわけですし、今、小選挙区になってみんなびくびくしていますから、農協を敵に回すような質問などできない》(同)

 バブル当時、金融機関は、確かな担保がなくともジャンジャンお金を貸しまくった。これがバブル崩壊によって焦げ付き、二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなったのであった。

《バブル経済がはじけてしばらく経った1995年、世の中の目と耳は住専問題に奪われていた。住専とは住宅専門貸付会社の略称で、住宅ローン専門の貸付業者のことである。誕生したのは1970年代で、これがバブル経済に乗って急成長し、この年の住専7社の総融資残高は11兆4000億円に達していた。

 その74%にあたる8兆4000億円が不良債権となり、その処理のために6850億円の公的資金を投入するという閣議決定が騒動の始まりである。国会はこの問題を巡って紛糾し、テレビも新聞も連日大々的に報道した。問題はこの資金投入が、住専への債権者の一角をなす農協を救うためのものだと宣伝されたことである。

 たしかに住専7社の債務総額12兆6241億円のうち、農協資金(農林中金、信連、共済連)の合計は5兆5997億円で全体の44%を占めていた。残りは銀行と保険会社であるが、銀行融資のほとんどは住専を設立した「母体行」のものだった。この母体行が口をそろえて「農協の責任」を語り、マスコミがそれに乗って農協批判に追い打ちをかけた》(太田原高昭・北海道大学名誉教授「住専問題とは何だったのか」:2014年6月20日付「しまね協同のつばさ」:農業協同組合新聞)

 本当に農協に責任を押し付けたのかどうかについては、ここでは追及しない。確認したいのは、バブル崩壊後、焦げ付いた金融機関の債権を処理するために、根拠曖昧なまま、多額の公金が投入されたという一事である。