描き下ろし小説 愛食家な彼女 1
今年で34歳になる高柳刑事が、24歳のころの話であるなら当然十年前となる、1998年の事だ。
平成で書くなら10年、
皇紀に直すと2658年だし、
ユダヤ暦いたっては5758~5759年ということになるだろう。
FIFAワールドカップの開催に大いに盛り上がった年だし
X-JAPANのFANなら、当然なかったことにしたい年だっただろう。
毎年のことではあるが、世界は刺激的に
痛烈なまでの激動をもってこの年も迎えていたに違いない。
小さな出来事でさえ、その年も人々は傷つき、大きなものごとに感動しながらも、やはりどこか冷めた目で見たに違いない。
新米警官と呼ぶに間違いない、高柳もやはりその例外ではなかった。
警察にとって、国家第一種試験に合格すると言うことは、すなわちエリートであることは間違いなく。
その上で、彼が京都大学の出身で、さまざまな気縁もあり、この年にして5件ほど殺人事件に巻き込まれ、そのことごとくを解決したとなれば、彼をその年の傑物と噂するのは、割合当然の事だが・・・かといって、それは本人のやる気次第というものだ。
実際彼は、エリート街道にいながらも、全くと言っていいほど、それに価値を見いだせずにいたし、偉くなればなるほど、仕事は大変になってくる。責任という重圧だけでも、自分は耐えられるほど、頑強でも鉄壁でも、なおかつ言えば、不死身でもないのだ・・・というのは、彼のあきらめの口癖だ。
ただ、自分が傑物かどうかに関しては知らないが、間違いなく言えることは、少し変わっていると言う実感だけはある。
それは性格的なことではなく、肉体的なことなのだが・・・・・・。
デスクの上で、コーヒーカップにたゆたう黒く滲んだ液体に、自分の姿が投影される。
少し老け線ではないのか?・・・と、それが最近の彼の悩みだ。
「高柳啓司、君は暇なのかね?」
「はい?暇じゃないですよ?」
「んじゃ、そのパリッパリのヤングスーツをしみったれた汗とか滲ませて、くしゃくしゃになるくらい働こうよ、公僕。少しは先輩を見習いたまえ」
はぁ・・と、一応応えておく。
実際、報告書も書き終えて(なんて、実際は始末書だけど)、一息ついていたのだが、目の前に取り調べが待っている。
京都警察署に配属されて、ここ数週間、いろいろやって仕事を覚えているつもりだが、どうもペースが急すぎる。まるで止まっている時間がない。
若い人間なんだからと言うが、若い人間は、むしろ保護されてきた結果、そう言った環境に慣れておらず、実際に憂鬱なくらい、高柳は疲れていた・・・という以前にやる気が出ていなかった。
そう言ったところに、毎回ご丁寧にカツを入れに来てくれるのが、この藤本沙世刑事。
京都警察署では並ぶものがないほどの人気者(外見的な意味で)にして、鬼刑事とはまさにこいつのことと言わんばかりの古臭いスタイルに従事する、化石以前に石油になってんじゃないかって古さの味を持つ警官だ・・・といっても、2年先輩だから、わかいにはわかいのだけれど。
兎に角、高柳はこういうのは苦手だ。コンピューターは好きだし、そう言う足を使うよりも、機械の目を通した方が自分には合ってるような気もする。
彼女に対しても、Gメンや、太陽にほえろを見すぎだろうと言うのが彼の印象。
自分も見ていた口なのだが。
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