自己消失  1-13 サドでグロでブラックな女 ―小説 | 蒸れないブログ

自己消失  1-13 サドでグロでブラックな女 ―小説

今まで犯人候補第一位だったそいつは、悠然と僕を見下ろしている。

間違っても起き上がるのに手を貸す様子はなかった。

柄原は、麦わら帽子を脱いで、ゴム紐の部分で背中にずらした。


同時に黒く長い長い髪をポニーテールにする、いや、ポニーテールと言うには長すぎるだろう。

腰のあたりまで伸びている。

もはや、重量馬の名を使いペルシュロンテールと呼ぶに相応しい。


鋭いが、同時に大きな瞳で、こちらを見下し白い肌が、赤く塗られたルージュが、先ほどから赤い軌跡を網膜に残す。


やっぱ打ってるな・・頭。


「ふん、登場も何もないではないか、そもそもこの仕事を初めにお前に回したのは私だぞ?

私が出ないのは嘘だろう。

だいたいこんな時期に麦わら帽子を被っているキャラが他にいるのか?」


「そう根に持つなよ。美雄。

だいたい、お前だってそういう明らかに不審者の格好をしていたら麦わら帽子もクソもない。

十分犯人候補だ」


僕はゆっくりと起き上がる、


ああくそ・・、背中が痛い。


「それだけではないさ。

私が最大に怒っている理由は、私だと気付いた後で、なんだ?

『お前が出てくる前に終わらせたかった』だと。

面白いことを言う。

私にはどうしてだか理由が見えないな、教えてくれないか?」


正直、二つほどある。

一つは、ロクなことにならないから。

これを言えばさすがに怒るだろうから言わないでおくとする。

では、二つ目のほうを回答しておくか・・。

「御世さんと被るだろ?名前が。」

「ふん、下らん理由だ。」

切り捨てられた。

僕としては結構重大な悩みなんだがな。


「ちょ・・ちょっとぉ、知り合いなんですか?こ、この人」

古矢さん。ビビりすぎ。

ま、確かにこいつの気配はヤバいものがあるからな。

まぁ、ビビるのも無理はないか、人間が熊を目の前にしてビビるのと同じだ。

暴力のスペックが違い過ぎる。


「紹介する。こちら柄原美雄。27歳。

みての通り女性。麦藁帽子を一年中被るのが性癖」

「止めてくれたまえ、君の口からの冗談は肝が冷える。」


僕としては、お前に関してのみ肝を冷やしても全く罪悪感が生まれないな。

「は、はぁ。」

どうやら、まだ古矢さんは話の流れについてきてないらしい。

「すまないね。

私はこの事件を御世から相談されてね。

こいつを御世に紹介したのも私なんだ。

まぁ、仕事はこいついまわしたものの、やはり心配でね。

ついつい君たちの様子を見にきた。」

「そ―」

古矢さんは、少しうつむきしばらく考え、

まだ納得いかないが・・といった感じだが―


「そうですか。」


―と、とりあえず言った。


「さて、陰から見守るのも私は少々飽きた。君に力を貸してあげよう。」


いや、出来れば帰れ。すぐさま頼む。


「そうはいっても、君にこの後のプランなんてあるのかい?」

・・・そこを突かれると痛い。

唯一の容疑者がこいつだったんだ。

ただでさえ登場人物が少なすぎる状態だ。

そのすべての人間に犯人の気配がない。

これでは、本当に無関係の人殺しを追いかけるだけだ、

しかも、今のこの何の意味もなかった捕り物で出てこなかった以上、

僕にはその見知らぬ犯人とやらを捕まえる手立てがない。

いや、時間がない。


警察の力を借りることができれば何とかなるだろう。

あいつらは組織捜査という強大な武器がある。

だが、それも無理だNEWSでも今回の事件は殺人事件とは認識されていないし、

認識できるはずもない。


犯人を捜せ!といったところで出来るはずもないのだ。


「あの、とりあえず家に戻って話をしませんか?お茶出しますから」


古矢さんの一言でぼくらは弓端家に戻ることにした。

家が安全ではない以上、どこで話そうと同じだが、今年の冬の外気は寒すぎたのだ・・・温かいお茶が妙に恋しくなった。





洋風の応接間、ソファーに四人腰かける。

さすが旧家。

調度品には雰囲気の良いアンティークが飾られている。

椅子もふかふか。

こういう状況下だと、普段ならまた眠気がぶり返しそうだが、今回はそうはいかなかった。


全くべらべらと目の前の女がしゃべるからだ。


今は、コートもマフラーも脱いで豹のような肉体を、スーツで包んでいる。

だが、麦わら帽子とろうよ、被ってないぶんましなのだろうが・・。

ま、いいか。

「すみません、古矢さん席をはずしてもらえますか?」

古矢さんは、コクンとうなずき。

退室した。


「さて、お前の言うプランを話してくれないか?」

「む?そんなものはない。」

な・・・。

「これは君の仕事だろう?君がプランを立てなくてどうする?私はただアドバイスするだけだよ」

なるほど、そりゃいい。

僕もお前と手を組むのは余り気乗りしないよ。

愚痴を聞いてくれるなら別だけどな。

「さて、君はどうだね。

捕り物なんかして馬鹿のようだね。

いっそ馬鹿なんじゃないか?僕ならそれに一票投じる。」


「相手は魔法使いだ。本当に守るには魔法使いを捕まえるのが最も正しい方法だ。」



「確かに、さすがに場数を踏んだからね。

そのくらいは理解してるね。

でも、君の踏んだ場数はバトルファンタジーであってミステリーじゃないだろう?

だから手順がなってない」


さっきから、ねちねちと・・ならどう手順がなっていないって言うんだ。

「なら聞くが、君は犯人を探す準備をしたのかね。」

準備?

「捜査のことさ。

捜査がだめなら予習かな。

本を書く時と同じだ。

ちゃんと資料を集め、

深く理解し、

想定しないでインスピレーションだけで書こうというのは、駄文を作ってしまいがちだ。

本を書くのにもっとも重要なことの一つだよ。

まぁ、売れる本にはインスピレーションの力が最も尊いのかもしれないがね。

いや、本の話はどうでもいい。

で、どうなんだい?君は捜査をしたのかな?」


・・・・・・


「ふふ、そう。君の役目は護衛だからね、探偵ではない。

だから、捜査はしなかった。

それが致命的なんだよ。

情報が少なすぎる。

君の手持ちの武器では真実にたどり着くどころか、

犯人にたどり着くことすらできないだろう。


そんな状態で捕り物なんて無茶な話だ。

ま、時間が3日間しか与えられないうえ、

警察なんて都合のいいキャラクター出てきてくれないのだから仕方ないと言えば仕方ないがね。


だが、

ま、

今の場合、確かに情報不足はあるかもしれないが、犯人に辿り着くには十分かもしれないね。


要するに、君が今そうやって困っている最大の要因は情報の整理ができていない上、

概念の理解がまだまだ浅い所だよ。」


「それって・・」


「そう言うことだ」


だが、それでも、もしそうなら、矛盾が発生する。


「そんなことは君の仕事だよ。

私の知ったことではないし、本当に見当もつかない。

ただ、私はちゃんと捜査したのでね、君よりは解っているつもりだよ」


いや、お前のことだから、本当は見当くらいは付いているのだろう。

なら、話せばいいものを。


「そうまで言うなら私の見解を出してもいい。

それが真実とは限らないし、なによりこれ以上は有料だ。

私にも今回の分け前を要求する権利が発生する。」


柄原は席を立って帰る身支度をする。


「お前・・本当は何もわかってないだろう」


「その通り、よくわかったな。私はAliceじゃないからな、当然『わかっては』いない」

何と言うか、アドバイスよりダメ出しを受けた感じた。

「帰るのか?」

「ああ、大丈夫そうだからな。」

「いや、そうじゃない。相手は『魔法使い』だぞ」

「今回は、君の仕事で構わないよ。

あんまり邪魔したらAliceが怖いからね。今回はここで私は退場だ。」

お前が?ただの外国人の女子高生を怖がる?


「恋は・・・盲目だな」


「なんだよ、それ」


「さて、見送りは玄関まででいいよ」


何で、僕が玄関までお前を送らなきゃいけないんだ。



  ◆ ◆ ◆



結局、僕は柄原を玄関まで見送った。

あいつが、帰って一安心・・だが、あいつの残した言葉が、同時に頭の中をぐるぐると廻っていた。

(どういう意味だ?)





柄原は高そうなブーツを履きながらぼそっと呟く。

「今回のジャンルを間違えるな」
「ん?」
柄原は立ち上がって振り返る。
玄関にたったあいつは、僕より一段下に居るにも関わらす相変わらず見下している。
突然、顔をぐいっと近づけてきた。

近い、近い、近い。
離れろ。

「これはミステリーじゃない。パズルだ。」

「はぁ?」

そう言うと、柄原は首筋にそっと顔を近づける。

「なっ、おい・・・やめぇ」

背筋がいやな汗が出る。

悪寒が全身を駆け巡る。

柄原は、丹念に首筋に舌を這わし、

時にあま噛みし、

キスする。

「はむ、ぁ・・んぅ」

喉を鳴らすな。

柄原。

やめろやめろやめろ。

はたから見たらエロティック万歳な状況のようだが、

僕からしたらまさに拷問だ。

大型の獣に牙が首元にかかっているのも同じだ。


「ふふ、勃たすなよ。その気になってしまうからな。」

勃つわきゃあるきゃ!?

「~もう、や、やめろッッて!」

僕はたまらず、柄原を突き飛ばした。

「なんだ、つまらん」

「お前はそう言う担当じゃないんだよ!」

「それはそうだ。」

柄原は玄関のドアをあけ去り際に毎度の言葉を告げる。



「私の担当はいつだってサドでグロでブラックだ。」