自己消失   1-12  狩るモノ ―小説 | 蒸れないブログ

自己消失   1-12  狩るモノ ―小説

僕らは、弓端さんを連れて歩いた。

正確には、僕が弓端さんと一緒に手をつないで歩いて、古矢さんが、隠れて相手の出方をうかがっている。


「あの、普通逆ですよね。」

「いえ、これが普通ですよ。」

「だって、あなたが護衛として雇われたんでしょ?」

「ええ、でも僕は『一切の戦闘力』を持ちませんし」

「そ、そうなんですか!?」

「それに古矢さんは武道の心得があるんでしょう?」

「ええ、まぁ。というか、よくそれで護衛を引き受けようと思いましたね。」

「え、魔法使いから人を守るのに力は必要なんですか?」

「それこそ知りませんよ」




という、一連の流れもあってのこの布陣である。

ぼくらは、ゆっくりと歩く、

どんな兆候も見逃さないように、どんな事態にも対処できるように・・。

そして、進む先は商店街。

あの、悪意の主と出会ったあの場所である。


僕らは商店街へとついた。
今のところ何も異変らしい異変はなく。

あの悪意も感じ取れなければ、その人影もいない。


しかし、昨日とは様子がまるで違う。

もう昼の三時頃になっているというのに、商店街には人が一人もいない。

それどころか、商店街のすべての店のシャッターが下ろされている。


休業日なのかもしれないな・・・。

しかし、これは逆に好都合だ。

僕の声が聞こえる範囲に人がいない。

これほど扱いやすい状況はない。


その時、やっと待ちつつけていた気配が来た。
この底知れぬ感覚。
どれほどまでに・・・。



(しかし・・かかった)



だが、僕らは気付かないふりをして歩く。


人がいないとはいえ、ここは商店街。

もっと人気のないところのほうが、向こうにとっても都合がいいだろう。

それは僕とて同じだ。
そうして、商店街を抜け、しばらく、町を歩く。

ちょうどいい、袋小路が来た。

奥まで言って、奴を待つ。

「理由がわからんな」

その人物は、そんな事をのたまいながら僕らの前に現れた。

その時、初めて、この悪意の主の外観を認識した。


以前に感じたのは瞳だけ、


よりはっきりとした認識は、以前よりも、それに存在感に厚みを持たせた。


冬場にはあまりにそぐわな過ぎる麦わら帽を深くかぶり、

体型の分らない分厚いロングコートに口元を隠すようにマフラーを巻いている。


唯一わかるのは僕よりも身長が高いということ。


その状態で俯いているため、顔は確認できない。


「・・・・」


沈黙する。


まだだ、まだなんだ。

もっと近づけ。



こっちに来い!


「自殺行為だとは思わないかね。

仮にも君は護衛をしているのだろう。

こんな単純な囮で、打開策と考えているのなら、まさしく馬鹿の考え休むに似たり・・だな。

魔法使いに効果なんてあるはずもない」


ゆったりと、ゆったりと近づく、もう少し、もう少し。

相手の圧倒的存在感が、より間合いをはっきりと告げる。

今!


「古矢さん!」

「だから、単純だと言っているのに・・・」

古矢さんが、奴の背後へ物陰から飛び出る。

そこからの古矢さんは、さすが心得があるというべきだろう。

あの踏み込みは、剣道の踏み込みに匹敵する。


あっという間に、相手の背後を―。

「!?」

相手は予測していたように、背後を取られるより先に振り替えり、こぶしを放つ。



直撃!



普通に古矢さんが背後を取ろうとすれば、

いまごろ外面にそのこぶしが埋め込まれていただろう。


「な!?」


古矢さんは、背後を取るどころか、麦わら帽のそいつをあっさりと素通りしてしまった。

古矢さんは、弓端さんを守るように、僕のいた位置で立ち止まる。

「自分で言ったろ、僕が護衛だ。僕が取り押さえなきゃ嘘だろ」


そう、背後を取ったのは僕のほうだ。


僕は一切の戦闘能力を持たない。

そんな僕に、犯人との間合いを詰め、

尚且つ背後を取るなんて言うのは正攻法は絶対に不可能だろう。

だから古矢さんにお願いした。

古矢さんが背後を取ろうとすることで、僕から相手が背を向ける。

それが狙いだ。

武道の心得のある古矢さんに対応が追われている状態がより僕の仕事を簡単にする。


全力で、

全速力で、

相手の背後に近付くだけでいい。



あとは、相手の耳元で―




「やはり、休むに似るな・・」

奴はそう呟くと、僕の口元を手のひらでおさえつけ、そのまま逆入り身投げ


―合気道かよ―


で僕を投げ飛ばす。

本来、合気道の逆入り身投げは投げ飛ばせるような技ではない。

どちらかと言えば地面に叩き伏せる技だ。

それ程の異常な怪力。

それは、それだけで魔法に匹敵する暴力だ。

僕は、投げ飛ばされながら対峙していたものの正体に気づく。

なんだよ・・・とんだ勘違いだ。

ドスンと、背から落ちた、頭は軽く打ったかも知れない。



「いつも言ってるではないか、君は頭が良くない上に、人が良いんだから裏をかくなんて無理だよ。」



「たく、痛いだろ手加減しろよ。だからお前が出てくる前に終わらせたかったんだ。」

柄原美雄(つかはらみゆ)が登場した。