久しぶりにケンプの1961年秋の来日の際に行われたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会のライブをチビチビと聴いてました

タイミング的には、この年の夏にライトナーが指揮するベルリン・フィルと、あまりにも有名なベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲録音を行っています。
そして、この数年後には、DGにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を再度、今度はステレオで録音しています。
この来日ライブ盤は、装丁も立派ですし、限定盤(といいつつ発売から3年経てもまだ入手可能)なので、ケンプのファンのみならず、ピアニストの方やピアノ教師の方など、プロの方にもお薦めです。
これからベートーヴェンを学ぼうという人には、やはりケンプらしい(笑)ミスタッチが散見されるので、あまりお薦めではありませんが、何度もベートーヴェンのソナタを弾いた或いは聴いたという方には、是非盤です。
それにしても、ケンプはほんとうに不思議なピアニストです。
申し訳ないけど、今時の学生でもあり得ないような箇所で、思いっきりミスるし、しかも楽譜が読めない人でも明らかに判るレベルのミスタッチです。
他方で、例えば「ハンマークラヴィーア」のアダージョ楽章などで聴かせてくれる深山幽谷を行くが如き演奏は、史上誰も成し得ていない世界だと思います。
一つ一つの音符を磨くというよりも、異なる意味を持たせるということにかけては、世代の近いエトヴィン・フィッシャーに通じるものがあろうかと思います。
そんなケンプを聴いた後に、最近のベートーヴェンをというわけで

エル=バシャによる2012年から2013年にかけての録音。
とにかく、恐ろしく透明度の高い音色です。
ベヒシュタインを使っているとのことですが、それだけではなく、このピアニストの特性なのだと思います。
「悲愴」の冒頭の和音も個人的な感覚では全くグラーヴェではなく、その和音を構成する各音符をが各々しっかりと聴こえてくる感じ。
視覚的に言うと、サイダーの泡の一粒一粒がきれいに見える純度(分かりにくいかw)
他方で、打鍵はあまり深くしっかりとという感じではありません。
少なくとも独墺系の往年のピアニストたちのタッチとは、異なる世界です。
レバノンに生まれ、フランスで学んだというキャリアからしても、超のつくドイツ本流のケンプとは自ずと異なるベートーヴェンに仕上がるのも当然なのかも。
なお、ケンプとは対照的に、技巧的には何の心配もないので(笑)、学習者にはレファレンスとしても向いていると思います。
それにしても、いろいろな演奏を体験できるベートーヴェンという作曲家の懐の深さを感じさせてくれる2つの全集でした。