今日は久しぶりにギーゼキングが弾いたベートーヴェンのピアノ・ソナタを♪

ギーゼキングというと、モーツァルト、ラヴェル、ドビュッシーのピアノ作品全集の録音で、カタログから落ちることはなく、常に入手できますし、未だにその高い評価は変わらないですよね。
なにしろレパートリーは死ぬほど広く、スカルラッティやバッハから、20世紀の作品まで、しかも国を問わずに演奏してます。
同世代のケンプ(に限らず当時のドイツ系のピアニスト)のラフマニノフやスクリャービン、ヴィラ=ロボス、ルーセル、プーランク、ファリャなんて、想像できるかしら?
これに比して、彼のベートーヴェンの録音となると、あまり評価は高くはないし、そもそもあんまりCD化されていません。
最大の原因はやっぱり協奏曲もソナタも、遂に全曲を録音せずに世を去ってしまったことが大きいと思います。
(殊に後期の傑作の「ハンマークラヴィーア」が欠けているのは痛い!)
同じドイツ系のピアニストだと、同年齢のケンプは言うに及ばず、先輩のバックハウスやシュナーベル等は、いずれも全曲を録音できました。
あとは、ちょうどEMIがモノラルからステレオへの移行期ということもあり、音質にばらつきがあることです。
そのことをEMIが気にしていた証として、ギーゼキングはベートーヴェンの第4番と第5番の協奏曲を1951年にカラヤンと録音しながら、4年後の1955年には同じ曲目をステレオでわざわざ録音し直しています(指揮はガリエラ)。
もっとも、ベートーヴェンはギーゼキングにとっての終生のレパートリーの中核を成し、ピアニストとしてのデビューは、ハノーファーでのピアノ・ソナタ全集演奏会でしたし、既に1930年代から幾つかのソナタと協奏曲は録音をしています。
ギーゼキングはその早すぎる晩年に、いよいよ満を持してEMIにベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲録音を行っていましたが、残り3分の1弱というところで力尽きてしまいました。
因みに最後に録音していたのは、「田園」ソナタの第3楽章で、そこで猛烈な腹痛を起こし、急性膵炎と診断され、手術は成功したものの、術後の経過が悪く、4日後の1956年10月26日に息を引き取ります。
彼はその巨体にもかかわらず、菜食主義者として知られてますが、そんな彼が年長のバックハウス、ルービンシュタン、エトヴィン・フィッシャーよりも先に亡くなってしまったことを考えると、過度な健康志向も考えものだと思います(^^)
なにしろ、同い年のケンプは、ギーゼキングよりも35年も長生きしたのですから。
それはともかく、EMIは上記の「田園」ソナタを第3楽章までという異例の形で発売しました。
しかし、その後CD時代に入ると、ギーゼキングのEMIへの未完のベートーヴェン全集は、本家からはほとんど再発されず、日本で一度短期間だけ発売されたきりです。
そんな中、本家から復活した録音としては

「ヴァルトシュタイン」、「熱情」、第30番、第31番。
最初の2曲は1951年のチューリヒでの録音で、時代的にまだモノラルなのは致し方ないんですが、後の2曲は年代的にはステレオでも良さそうな1955年9月のロンドンのアビーロードでのモノラル録音。
因みに上記のガリエラとの協奏曲は、わずかその3日後の録音で、こちらはステレオ録音。
なんで、ソナタもステレオで録音しなかったんだ?とEMIに説教したくなります(苦笑)。
チューリヒでの録音のほうは、ほとんど一発録りなのでは?という演奏ですね。
そして、彼の生涯の最後の録音群がこちら

「悲愴」、「月光」、第9番、第10番、第13番で、全てステレオ録音(^-^)
この人は190cm、体重100㎏ほどの巨漢だったと伝えられ、たしかにフォルティッシモの爆発力はそれ相応にすごいんですが、それ以上にその体躯からは想像の出来ない繊細なピアニッシモのコントロールの巧みさ、そしてバックハウスとは対照的なペダルの細心のコントロールで、音の混濁が極めて少ないことが特徴の一つです。
同じ曲目でも、ペダルをよく言えば鷹揚に、悪く言えば無頓着に踏みっぱなしのバックハウスとは、ほんとうに対照的だと思います。
(バックハウスはそれはそれでゴージャスなベートーヴェンに聞こえるんですが)。
なお、「月光」は「田園」と同じ日、すなわちギーゼキングが生涯で最後にピアノを弾いた1956年10月22日の録音で、まさしく遺言代わりの録音です。
それにしても、驚かされるのは録音スケジュールとレパートリーの幅広さ。
1955年の秋に、乗っていたバスが事故を起こし、夫人を喪い、ギーゼキング自身も重傷を負いますが、翌1956年には復帰。
春の米国ツアーで大成功を収めた後、9月からロンドンに乗り込み、EMIのアビーロードスタジオで集中的に録音活動に入ります。
9月中旬には、ベートーヴェンの初期のソナタ群を。
下旬にはグリーグの抒情小曲集、メンデルスゾーンの無言歌集の一部を。
その間に、CD化もされたBBCへのフランスものの録音を。
10月半ばに入ると、再びアビーロードのスタジオに戻り、スクリャービン、タンスマン、シューマン、ショパンと全く脈絡の感じられない作曲家たちの作品を録音し、そしてベートーヴェンのソナタとなりました。
因みにギーゼキングは、EMIへの商業録音とは別に、大量の放送用の録音を残しています。
特に彼が戦後音楽院の教授を務めていたザールブリュッケンにあるザールラント放送協会が、相当数の録音を残していて、その中にベートーヴェンのピアノ・ソナタがあります。

この中には、EMIには録音できず終いだった「ハンマークラヴィーア」も含まれてます。
30分台で走破する高速演奏で、これも恐らく一発録りでしょう。
結局、EMIへの商業録音とこのザールラント放送への録音と合わせると、第22番以外のソナタは揃うことになります。
是非ともEMI本家(今はワーナー)から、この未完のベートーヴェン全集を復活させて欲しいものです。