先日、突如としてヴェルザー=メストが任期を残しての音楽総監督の辞任を表明したウィーン国立歌劇場。

さすがは世界一の歌劇場にして、世界一の伏魔殿です(笑)

歴代の音楽総監督(肩書はいろいろですが)、すなわちマーラーを筆頭に、ワインガルトナー、リヒャルト・シュトラウス、ベーム、カラヤン、マゼール、アバドと、各々色々な事情はあったのでしょうが、この伏魔殿には手を焼いてきて、その地位を離れてます。


この方も、現代物をやり過ぎて不評をかい、ウィーン国立歌劇場を離れました


クレメンス・クラウス指揮のウィーン国立歌劇場でのライブ録音。


このCDは、1994年に2枚組24セット、計48枚とパイロット盤の49枚から成る大戦前のウィーン国立歌劇場のライブ録音集です。


クラウスが資料的なものとして録音を認めたことから1933年から始まったもので、クラウスがウィーンを去った後も続き、1944年まで続けられたものです。

ディスクへの録音のため、せいぜい数分程度ずつの断片的なもので、しかもザーザーと絶え間なくノイズが流れてるので、マニアや研究者以外にはお勧めはできませんが、この時代にこれだけまとまった数の録音は非常に貴重。


登場する指揮者も、このクラウスをはじめ、フルトヴェングラー、ワルター、クナッパーツブッシュ、ベーム、デ=サーバタ、リヒャルト・シュトラウス、ヘーガー、モラルト、レオポルト・ルートヴィヒ、レハール、N響でお馴染みのロイプナー、ワインガルトナーなど、まぁ錚々たる面々!!

歌手陣はもはや名前を挙げるのが嫌になるくらい凄まじい綺羅星の如きメンツなので、省略(笑)


なお、当時の慣習に従い、全てのオペラはドイツ語で歌われてます。


さて、この第14巻は1929年から1933年までウィーン国立歌劇場の音楽総監督を務めたクラウスのワーグナーを纏めたもの。

演目は:

・ラインの黄金(1933年2月28日)
・ヴァルキューレ(1933年6月11日)
・神々の黄昏(1933年3月7日)
・マイスタージンガー(1933年1月20日)
・パルジファル(1933年4月13日)

いずれも上記の通り、断片です。


クラウスのワーグナーの全曲録音というと、早すぎる没年の前年の1953年のバイロイトにおける「指環」と「パルジファル」、そして大戦中のバイエルン国立歌劇場での「さまよえるオランダ人」くらい。

そういう意味でも、この録音は貴重です。



しかし、何が凄いって、クラウスがウィーン国立歌劇場の音楽総監督に就任したのは、まだ36歳の時!

因みに1歳下のベームが1回目のウィーン国立歌劇場の音楽総監督に就いたのは49歳の時、カラヤンが就任した時には48歳ですから、いくらクラウスがウィーンっ子とは言え、いかにクラウスの才能が高く評価されていたかが伺えます。

しかも、1933年にウィーン国立歌劇場を去った後にはベルリン国立歌劇場の音楽総監督、そして1937年から終戦までバイエルン国立歌劇場の音楽総監督を務めてます。

ウィーン、ベルリン、バイエルンの音楽総監督をポストを歴任した指揮者はいたでしょうか?

しかも、1930年からはフルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルの常任指揮者(クラウスが辞任した1933年をもって、ウィーン・フィルが常任指揮者制度を廃止したのはご存知の通り)、1941年から1944年までザルツブルク音楽祭の音楽総監督を務めるなど、まぁこれでもかというくらい独墺圏のポストを席巻してます。


ここに聴くウィーン国立歌劇場でのクラウスのワーグナーは、さすがに酷い音質なので、これだけで云々はできませんが、やはり戦後のバイロイトの録音に通じる比較的清新なワーグナーで、古色蒼然としたクナッパーツブッシュのワーグナーなんかとは対照的てす。


歌手陣は、優れたローエングリン歌いであったフランツ・フェルカーによるジークムントや、今では完全に忘れられてしまったヘルデンテノールのカレンベルクによるジークフリート、ヒトラーのお気に入りだったボッケルマンによるザックス、ウィーン国立歌劇場の伝説のプリマドンナであったイェリッツァによるブリュンヒルデなど、素晴らしいメンバーです。


また、途中に途切れた箇所もありますが、マイスタージンガーの第1幕への前奏曲が拍手に続いて録音されてたりします。


日常的に聴けるワーグナーではありませんが、資料的な価値は満点です♪