久しぶりに、フルトヴェングラーの「田園」を。


フルトヴェングラーによる「田園」の録音は、計6種類存在します。

最も古いのが、1943年の録音。
最も新しいのが、1954年5月という死の半年前のもの。


フルトヴェングラーは、晩年に至るにつれて、その音楽の激しさが徐々に鳴りを潜めていきますが、例えば「運命」や「第九」はそこまでないにしても、この「田園」はかなり顕著で、特に1954年の2種類の録音は、いい意味で本当に枯れた演奏です。



今日は、フルトヴェングラーがまだそのパッションを全開にしていた第二次大戦中の2つの「田園」を♪



まずは、1943年12月22-23日のウィーン・フィルとの録音

こちらは、大戦中の数少ないエレクトローラ(独EMI)へのSP用の商業録音で、同じ月の18日にはやはり同じコンビでブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」を録音してます。


ただし、ドイツの敗戦の1年半前という状況で物資が不足していたのか、これらの録音はついにSP時代には未発表のままお蔵入り。

しかも、両方とも戦後にエレクトローラの本家であるHMV(EMI)が再度同じコンビで録音したため、当然こちらが発売され、結局エレクトローラの大戦中の録音は数十年もの間、陽の目を見ませんでした。


さすがにSP用の録音ということで、頑張ってることは理解できるんですが、後述のドイツ帝国放送のテープ録音(マグネットフォン)に比べると、音質は格段に落ちます。

やはり第4楽章なんかは、フルトヴェングラーはもっとデュナーミクをフルに活かした演奏をしたかったのでしょうが、当時のSP録音でそれをやると、恐らく音が割れたりして収まりきらなかったでしょう。

ということからも判るように、フルトヴェングラーのベートーヴェンにしては、彫りはやや浅めです。

もちろん、ウィーン・フィルの木管セクションの美しさは、この決して高品位とは言いがたい録音からも伝わってきます。



お次は1944年3月20-21日のベルリン・フィルとの録音

この年の1月に、当時のヨーロッパで最高の音響を誇った旧フィルハーモニーが、空襲で破壊されたため、ベルリン・フィルはベルリン国立歌劇場、大聖堂、劇場だったアドミラル・パラスト、旧フィルハーモニーの近くのベートーヴェン・ザールなど、演奏会場を転々としてました。

この録音は、ベルリン国立歌劇場における定期演奏会の録音で、因みにこの日の他の演目は、ウェーバー「魔弾の射手」序曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」で、いずれも録音が残ってます(「ダフニスとクロエ」は第1組曲の方は断片のみ)。


因みに上の写真は、旧ソ連のメロディアのLPからの復刻盤で、小生が聴いたディスクは帝国放送のテープからの復刻盤であるアメリカ・フルトヴェングラー協会盤で、LPからの復刻盤のようなプチプチノイズはありません。


スコアは、新しいベーレンライターのスコアを見ても当然意味がないので、古いスコアを引っ張り出してきました。


フルトヴェングラーの第1楽章の冒頭の第1主題は、他の指揮者と比べてもゆっくりとスタートしますが、この演奏は際立って遅い!

ベートーヴェンのメトロノーム指示は2分音符=66となってますが、それを遥かに下回る遅さです。
4小節目のフェルマータに入る前のスコアに無いrit.もなかなか強力。

フェルマータが終わった5小節目からも、テンポは一向に上がらず、第1主題がトゥッティで奏でられる37小節から漸くテンポも上がりますが、それとて通常の他の指揮者の演奏と比べると、やはり遅い。

第1楽章に関しては、最後までこのテンポが貫かれています。

楽章最後の498小節からのFlのソロなんかは、思いっきりテンポを落とされてるので、本当に「ソロ」作品を吹かされている感覚だったのでは?(恐らくハンス=ペーター・シュミッツ)


第2楽章もこれまた遅い。
この楽章だけでも13分以上をかけています。

しかし、だからこそ58小節からのObとFlの掛け合い、69小節からのCIのソロの美しさを堪能できます。


第3楽章になると、かなりテンポも上がってきます。
特に第4楽章に入る直前に与えられたプレストの指示は、さすがフルトヴェングラーという効果的な使い方をしています。


当然、第4楽章の嵐は彼の独壇場。

ティンパニへのsfの指示は、最大限活かされてますし(ティンパニはテーリヒェンの前任のローゼかと)、97小節からのPiccのG音は録音のせいでやや割れ気味ですが、つんざくような鋭い音色です。
特にここは99小節の1拍目までの短い間にpからfへと一気にクレシェンドしていくので、聴感上、余計に強烈に聴こえます。


終楽章のテンポは、他の指揮者と比較してもわりとまとも。
ただ、再現部なんかはやや加速させるあたりは、フルトヴェングラーらしいです。

それ以上にフルトヴェングラーらしいのは、コーダの237小節から。
ソット・ヴォーチェの指示のみで、テンポに関して具体的な指示はスコアにはありませんが、フルトヴェングラーはガクッとテンポを落とします。
そしてどんどんrit.していき、まるで「田園」から去りたくないかのような風情。

なにしろ、会場の外は連日の空襲で瓦礫が散乱しているわけですし…


トータルで43分を超える「田園」をたっぷりと堪能させて頂きました♪



それにしても、たった数ヵ月しか違わないのに、スタジオとライブとの演奏のギャップには、驚かされます。




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