今日はうちの両親と航の両親が、揃って旅行に行ってしまった。


商店街の福引きで温泉旅行が当たったとかで…。


「あんたと航くんは学校があるでしょ。二人で適当にやりなさい」なんて、年頃の娘の母親とは思えない気楽さで、たった2泊にしてはずいぶん大きな荷物を持って、お母さんは航のお父さんが運転するセレナに乗って、行ってしまった。





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「オマエ、オムライス作れるか?」


授業が終わって帰ろうとすると、部室に向かおうとしている航に昇降口でばったり会った。


「作れ…るけど。一応」


「じゃ、今日の晩メシ頼む。これ、家の鍵。8時くらいには帰るから。オムライス、大盛りでよろしく」


そう言って、航は片手を上げて走って行ってしまった。




何?今の…。


いっぺんにいろんなことを言われて一瞬把握できなかった。


えーと、今日の晩御飯を、航の家で、オムライスを作って、一緒に食べるってこと!?


家の鍵なんか渡して、ちょっと強引だけど…ま、いいか…。




帰りがけにスーパーで、卵と鶏肉、カレー粉、デミグラスソース、付け合わせにする野菜を買った。


「玉ねぎと調味料くらいはどっちかの家にあるでしょ」


航から預かった鍵で航の家に上がる。


子どもの頃何度も遊びに来た、見慣れた玄関。みんなでテレビを見たりゲームで遊んだりしたリビング。


そして、航の優しいお母さんがおやつを作ってくれたキッチン。ここで、今日は私が航のために手料理を作る。


「オムライスだけどね…。航、オムライス、好きなのかな」




そこまで考えて思い至った。


オムライスが好きなのは、航じゃなくて、子どもの頃の私だ。


私の好きなものを、一緒に食べようということなんだ。


「航…」




ケチャップライスではなく、カレー味のご飯で、ソースをデミグラスにするのは、渋谷の「ラケル」の真似だ。


「航、気に入ってくれるかな」


8時くらいには帰る、といっていたから、そろそろ…


♪ピンポ~ン


あ、帰ってきた!




「お帰りなさい」


ドアを開けると、航はエプロン姿の私を見てちょっと照れ臭そうにした。


「ただいま…いい匂いだな」


「できてるよ、すぐ食べる?」


「うん。…ただその前に…」


航はいきなり私を抱き寄せた。 汗と埃のにおい…。でも全然嫌じゃない。これが航なんだ。


「じゃ、食べようか!」


航はにっこり笑って、靴を脱いで玄関を上がった。




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「ふ~。腹いっぱい。ごちそうさま!」


「どうだった?」


「めちゃくちゃうまかったよ。すげえ勢いで食べちゃったよ」


よかった。


「じゃあ私、片付けるね」


「オレ、シャワー浴びてくるけど…」


「うん、いいよ。行ってらっしゃい」


「あの、さ…」


「ん?何…?」


「…待っててくれないか」


「…?」


航は頬を赤くして、目を逸らし気味におずおずと、言いにくそうに言った。


「…今日、泊まっていってくれないか」




瞬間、心臓に稲妻が走った。




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