『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』 | First Chance to See...

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 私自身は「ナチスは良いこともした」とは全く思っていないけれど、そりゃユダヤ人はみんな死ねばいいと思ってる人にとってはナチスは「良いこと」をしただろうさ、とも思っている。ただし、今の日本でそういうことを言うと、「いやいやそうじゃない、ナチスがユダヤ人を殺したことばっかり言うけどナチスがやったのはユダヤ人殺しだけじゃなくて」と言い出す人たちがわらわら湧いて出るだろうな、という予感もある。

 

 本当はちゃんと反論すべきなのだろうけど、私も単なる一般人である。炎上は避けたい。そういうのはまとめて本職の学者さんにお任せしたい。

 

 それだけに、今このタイミングで小野寺拓也/田野大輔の共著『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」が出版されたのはありがたかった。読みやすくて買いやすい「岩波ブックレット」なのも助かる。今後、万が一にも私に絡んでくる人が出てきたとしても、「まずはこれを読め」と言えるもんね。

 

 

 著者が日本人学者なだけあって、アウトバーンとドイツ経済の回復とか健康政策とか環境保護政策といった、いかにもイマドキの日本人が「ナチスも良いことをした」と主張しそうな事例が並ぶ。それらが、単なる過大広告ではなく本当にナチスがやったことなのか(前政権からの引き継ぎ案件まで自分たちのオリジナル案件扱いにする、とか、やると言っておきながら実際には不履行だった、とか)、やったとしてもその裏にどのような意図や背景があったのか(ドイツ「民族」の健康のため、健康じゃない人を殺したり断種したりするってどうなの)、とか、ちゃんと検証してみれば到底「良い」とは言えなくなることを一つ一つ丁寧に解説していく。さらに、昨今やたらと「ナチスは良いこともした」と言いたがるイマドキの日本人の心性にも触れられていて、抜かりないというか「わかっていらっしゃる」というか、きっと本職の学者さんだからこそ危機感もハンパないんだろうなとも思った。