今回は俳優うそんさんの妄想文です。
嫌いじゃない方は、どうぞ下へ・・・・・・・・・↓
悪女演技 (4)
拒否しながらも誘う眼差し。誘惑しながらも撥ね付ける目つき。その矛盾を孕んだ瞳・・・・・・・・。
果実がついているような丸い大きな胸に、細くしなやかな腰、小さく引き締まった尻の下に長い脚がついている。
二の腕は筋肉がついているせいで普通の女性よりはやや大き目かもしれないが、それだって、逞しくて野性的な美がある。
ウソンは椅子に座って写真集を眺めながら、暇な待ち時間を潰していた。
「おはようございます」
ウソンは光の速さで見ていた写真集を閉じ、隠した。
午後から一緒に撮影をする予定の新人女優が、いつの間にやらウソンのすぐ側に来ている。
「おはよう」
今こそ役者としての才能を発揮する時である。
ウソンは『何も見てなかったよ。ただぼうっとしていただけさ』という風に微笑を浮かべた。
しかし、彼女はウソンが手に持っているものが何かすでにわかっていたようだ。
「別に、見ててくれていいんですよ」
「何を?」
諦めずに、ウソンはとぼけて見せる。新人は、全く悪気の感じられない素朴な顔で言った。
「あたしの写真集。ヌードモデルの」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ウソンはさすがに観念して写真集を取り出した。表紙の題名には彼女の名前が印刷されている。
『アジョン』
それが彼女、新人女優の名前だった。
普通ならチョン・ウソンと一緒の仕事など有り得ない無名だが、今回、大作娯楽映画の一キャストに大抜擢され、こうしてウソンとも仕事場を共にする立場である。
「えーと、これ。君のヌードモデルの仕事を、集めたやつなんだっけ?」
意味もなく眉の辺りを掻きながら、ウソンが言う。
何故、有名な俳優の自分が焦っていて、新人の彼女が平然としているのだろうという疑問が頭を掠める。
「ええ、そうです。香水とか下着とかのCMというか、広告で撮ったのを集めて本にしたものです」
特に恥じらいもせず淡々とアジョンが答える。
「聞いたところでは、ヌードモデルの仕事は大学の学費のためだって?」
「はい。両親がどっちも早くに死んで、お金がなかったので」
アジョンは荷物を置きながら、これまた淡々と悲壮な内容を告げた。ウソンは簡単に質問した自分を激しく後悔した。
「そうだったのか、知らなかった・・・・・・ごめん」
「あ、いえ。すみません」
アジョンはウソンの本当に申し訳なさそうな声を聞いて、驚いた顔をした。
自分の言葉がそれほど相手に罪悪感を抱かせるとは考えていなかったようだ。
「すみません、ウソンさん。あたし常識がなくて。言うべきじゃありませんでしたね。あたしにとっては、そんなに悲劇じゃないというか・・・・・・よくあることですし」
そんなによくある事情でもないだろう。
「それに、普通のバイトでも死ぬ気で働けばどうにかなったんですよ」
アジョンは肩をすくめて苦笑した。
「分不相応なレベルの大学に入ったから、勉強する時間をとらないと落第しかねなかったので・・・・・」
「へえ、いい大学だったんだな。学部は?」
「法学部でした」
ウソンはまた驚いた。つまり、アジョンは法学部学生でありながらヌードモデルをやっていたということか。
まさに異色の経歴である。
アジョンがウソンの手元を覗き込み、不思議そうな表情になる。
「あれ、これ、ガンホさんに借りたものですよね?表紙にサインしたはずだけど・・・・・」
「ああ、違うよ。ちゃんと自分で買いました」
誇っていいものかどうか逡巡しながら、ウソンは答えた。
こういう本を自分で購入したと宣言するのは抵抗があるが、一応、売り上げに貢献したつもりだ。
「ええ?欲しければ差し上げたのに!」
アジョンが驚いた声を出す。
「でも、買ったら印税になるだろ?」
照れ笑いしながらウソンが言うと、アジョンはじっとウソンを見た。
それから、花が咲くような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。ウソンさん、お優しいですね」
ウソンは今日、アジョンと会ってから、何度目かもわからない驚きを感じた。
しかし、今のは別に驚くことでも何でもないだろうと自問する。
彼女はただ微笑んだだけで、微笑んだ経緯も納得できるもので。
「控え室に行ってきます、”ドウォン”」
悪戯っぽく笑いながら、アジョンが控え室へと消えていった。
ウソンはアジョンを見送ってから、やっと自分が驚いた理由に思い当たった。
全開で笑うと、あんなに可愛いとは思っていなかった。
(驚かされた・・・・・・・)
ウソンは控え室の扉を見る。
アジョンがあの扉からもう一度出てくる時は、ドレスを纏い、髪を結い上げ、役柄である美しい娼婦に変身した姿だ。
その役柄は彼女にとても似合っているから、ウソンはそれが楽しみだった。
思えば、彼女が演じる娼婦ナビの役柄が魅力的だったがために、興味を惹かれて写真集を購入したのだ。
ウソンは人知れず呟く。
「早くおいで、”ナビ”」
