絢爛たる終わりのはじまり 「こうもり」「THE ENTERTAINER!」(宝塚星組東京公演 ) | オンナひとり気まま日記

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大好きなラグジュアリーホテルや、外で見つけた美味しいものの話がメインです。日々の徒然の他、脱線話も色々。

今年に入ってから、20年ぶりくらいに宝塚観劇を再開したため、大半のトップスターさんは初めて拝見するような状態が続きます。

星組に関しては4年前、先代トップの柚希礼音さん、夢咲ねねさんの「ダンサ・セレナータ / Celebrity」を拝見していたのですが(これはお取引先からのご招待…)、結局その後は専科から移籍された北翔海莉さんがトップに就任されたため、二番手時代を目にしていたということもなく。

北翔さん、ルックス的にはちょっと一昔前のジェンヌ風かしらという印象だったのですが(ファンの方ごめんなさい、自分が昔見ていた人間なので、何か既視感のあるタイプというか…)、とにかく実力派との評判で楽しみにしておりました。

…そうしているうち、次回公演で退団されるとの発表。トップ就任がまだ昨年のことですので、いかにも短い期間ではありますが、後進へのバトンタッチはトップスターならいつか来る宿命。たまたまこの時期に拝見するチャンスを得たことへの感謝と共に、東京宝塚劇場へ向かいました。

今回の演目は、ウィーン・オペレッタの代表作「こうもり」に、ショー「THE ENTERTAINER!」の二本立て。

ポスターは、こうもりと共にモチーフの1つとなる蝶、そして花で一杯の極彩色。蝶よ花よって意味違うけど。


「こうもり」は、大晦日を舞台としたドタバタ喜劇ということで、ウィーンでは大晦日に国立歌劇場で上演されるのが慣わしです。

話の中でもシャンパンでの乾杯シーンが散りばめられ、さしずめ日本ならお屠蘇気分で楽しく大笑いするための、気楽でおめでたいお正月映画のような立ち位置の作品なんでしょうね。

キャトル・レーヴ入り口前のディスプレイはいつもながら華やかです。


この作品中は劇場内のカフェでもシャンパンをグラス一杯1,000円で提供中。休憩時間にかなりよく売れてました。


さて、この作品のサブタイトルは「こうもり博士の愉快な復讐劇」とありますが、そもそもが喜劇ですので、そんな陰惨な話であるわけもなく。

仮装舞踏会でのこうもりの扮装のまま酔いつぶれて一晩放置され、笑い者にされてしまった主人公ファルケ博士が、悪友アイゼンシュタイン侯爵に同じような愉快な復讐をたくらむ…という内容ですので、まあ低俗っちゃ低俗です。

言ってみれば、飲み会で潰れちゃった男子学生が、眠ってるうちに仲間にマジックで顔にヒゲかかれて、翌日知らないで銭湯に行ったら大爆笑されて赤っ恥…みたいな話です(ちょっと違う?)。

というわけで、幕開けからグダグダに泥酔したファルケ博士とアイゼンシュタイン侯爵の掛け合いが続くのですが。
このシーン、ファルケ博士役の北翔さんとアイゼンシュタイン侯爵を演じる紅ゆずるさんがあまりにノリノリすぎるためか?正直何を言っているか分かりづらかった(苦笑)。

が、大爆笑してるお客さんは結構いたたので、あれはアドリブで笑わせている部分が多いのかな?リピートしないと笑いづらいってのもチト辛いが。

とは言え、笑いのツボがドンぴしゃではなくとも、さすがにオペレッタですので
、歌ウマトップスターの北翔さんのお歌は存分に堪能できますね。
この方の歌声、いわゆる吹き飛ばすようなド迫力というのでなく、聴き手に無理を強いない、心地よい声。
英語で言う、'effortless'という表現がピッタリきそう。無論、これができるようになるために、凄まじい努力を重ねられたのだろうなあ…と同時に思うわけですが。

紅さんも本来のオペレッタでは主人公である(と言っても、ドッキリカメラで嵌められるタイプの役)侯爵をオチャメに演じておられて、チャーミング。

ただ、トップ娘役の妃海風さんはちょっと勿体ない感じ。
本作はファルケ博士を主人公にしたことで、アイゼンシュタインシュタイン侯爵夫人ロザリンデではなく、妃海さん演じるメイドのアデーレがヒロインなのですが、北翔さんとの目立つ見せ場は乏しかったような。上手な方だけに惜しい。

まあ、原作のある作品で本来と違う登場人物を主人公にすると、宝塚のトップコンビ制度にあまり綺麗にはまらないこともありますね。

個人的にはこの作品、あんまり大爆笑まではいかなかったのですが、むしろ、オーストリア・ハプスブルグ帝国時代の後期という時代背景を考えると、また違う面白さはありますね。

よく言われることですが、ファルケ博士がオーストリア、アイゼンシュタイン侯爵は鉄血宰相ビスマルク率いるプロイセン、そしてトランシルヴァニア公国の貴婦人に身をやつして登場するアデーレは今で言うハンガリー、当時は勿論オーストリア・ハプスブルグ帝国との同君連合です。

他にも、ロシアやフランスなども、欧州の覇権地図上のプレイヤーとして顔を出しますが、こういった他愛のない喜劇で当時の世相を遠回しに皮肉っているセンスは好きですね。

…そして、世紀末ウィーンのユーゲントシュティール洋式を予感させる温室風のセットに、あたかも一大勢力を誇った帝国の最後の狂い咲きのごとき色とりどりの花が咲き乱れる様は、やがて19世紀末にオーストリア・ハプスブルグ帝国がいよいよ終焉へと向かうことをふと思わせたりもします。

…ふと思いましたが、この作品の演出を手がけられた谷正純先生って、その昔私が宝塚を見ていた頃は、日本物の悲劇が得意な方という印象だったんですけどね。

今は色々演出されるんだなあ…と感心しつつ、遥か前に「歌劇」で寄稿されていた文章で、「私は根が暗いのです。だから喜劇は書けません。次も悲劇でしょう。ご了承ください」とか言う意味の文を書いておられたことをふと思い出した。

…あのう、私があまりこの作品で笑えなかった理由はそこではないですよね、多分。

「THE ENTERTAINER!」は、今まで見たショーの中でも、かなり好きかも。普通、芝居への興味が勝っちゃってる自分には珍しいこと。

北翔さん演じるミッチェルが、 ブロードウェイを夢見てオーディションを受けるシーンのおふざけは、前半の芝居の悪ノリの残り香?もあったりして。

北翔さんと妃海さんの王道の美しいデュエットダンスの他、北翔さんのピアノの弾き語りが心に沁みます。

「ときは過ぎゆく 今は永遠じゃない
声の限り歌い続け 生命の限り光り輝こう」

別にずっと長年追いかけてきたスターさんでなくても、退団発表の後で聴くと、若い女性が青春をかけて、つかの間の夢を見せてくれる宝塚という世界の美しさ、儚さを改めて感じずにはおれませんね。

あと、前回東京宝塚劇場でみた宙組公演のショー「HOT EYES!!」でも感じたのですが、最近は前半からラインダンスや大階段を多用するのが流行りなんでしょうか。

今回のショーは終演後、近くの席でも「楽しかったねー!」という声が聞かれましたし、タイトル通りエンターテイメント性の高い作品だったのではないでしょうか。耳馴染みのよい曲が多かったのも一つの要因かもしれません。

さて、日比谷シャンテでは、北翔さんと妃海さんのステージ衣裳を展示中でした。


こちらは「ガイズ&ドールズ」。


ショー「Love & Dream」の麗しい衣裳。


見物していた女性が、ふと妃海さんのドレスの後ろ側をまじまじ眺め、「うそっ、詰めてないよ、これ…」「マジで、このサイズなんだ…」とビビってました。

うん、夢を売るって涙ぐましい努力が必要なんだろうなあ。改めてため息。