この秋の終わりから、すでに真冬に突入した感じの今まで、
この時期に聴きたい、心をキュンとさせられるバラード曲を
いくつか紹介してきたんですが、

こういった曲を今回紹介していこうと思ったきっかけは、
今回の曲をブログで紹介したいなと思ったからなのです。


ザ・カーズ「ドライブ」


ボストンで1976年に結成された5人組ロックバンド。

70年代後半から80年代にかけての、
アメリカ・ニューウェーブロックの代表的存在として、
バンドの中心人物である、
ボーカル、ギタリストでソングライターの
リック・オケイセックの個性的サウンドや曲の華々しさで知られ、
多くのヒット作を生み出してきました。

そんな彼らのシングルとしての最大ヒット曲で、
1984年の5枚目のアルバム、
「ハートビート・シティ(Heartbeat City)」からの
サードシングルである今回の曲は、

バンドの通常の個性とちょっと異なった、
静かに聴かせるバラードナンバーで、
リードボーカルもリックでなく、
ベーシストのベンジャミン・オールが担当し、

これ以上の関係を続けることのできない恋人への
想いと心配を歌ったラブソングです。

また、全く違った観点からの歌詞の捉え方で、
支える人の少ない社会への憂いを歌った曲として、
1985年の「ライブエイド」のテーマ曲として扱われた曲でもあります。


①俳優のティモシー・ハットンが監督を手掛けた
 白黒映像で少女の孤独と哀しみを描いた秀逸なPV。
 この少女役であるチェコ人のモデル、ポーリナ・ポリツコヴァは、
 現在のリック・オケイセックの奥さまです。




②この曲がテーマ曲となった、1985年ライブエイドでのステージから。
 この曲の紹介に際しては、エチオピアで飢餓に苦しむ子供たちの映像が、
 デヴィッド・ボウイによって紹介されました。




③年代はわかりませんが、同じく80年代中ごろと思われるライブステージから。



☆The Cars "Drive" from the album "Heartbeat City"
 1984年Billboard Hot100 最高位3位


Who's gonna tell you when
It's too late
Who's gonna tell you things
Aren't so great
You can't go on
Thinkin, nothin's wrong
Who's gonna drive you home, tonight

>> 誰が君に教えてくれるんだろう
>> もう遅すぎるってことを
>> 誰が君に伝えるというんだろう
>> そんなに大したことじゃないってことを
>> 先になんて進めないよ
>> 何も悪くないなんて考えでは
>> 誰が君を家へ送っていくんだろう、今夜

Who's gonna pick you up
When you fall
Who's gonna hang it up
When you call
Who's gonna pay attention
To your dreams
Who's gonna plug their ears
When you scream

>> 誰が君を助けてくれるというのだろう
>> 君が失敗をした時に
>> 誰が出てくれるというんだろう
>> 君が電話をかけた時に
>> 誰が気にするって言うのだろう
>> 君の夢のことなんて
>> 誰が彼らの耳を塞いでやるんだろう
>> 君が泣き叫んでいる時に

You can't go on
Thinkin, nothin's wrong
Who's gonna drive you home, tonight

>> 先になんて進めないよ
>> 何も悪くないなんて考えでは
>> 誰が君を家へ送っていくんだろう、今夜

Bye baby... bye baby... bye baby... bye baby...

Who's gonna hold you down
When you shake
Who's gonna come around
When you break

>> だれか君を支えてくれるというんだろう
>> 君が悲しみに震えているときに
>> 誰が見守っていてくれるというんだろう
>> 君が傷ついた時に

You can't go on
Thinkin nothin's wrong
Who's gonna drive you home, tonight
Ohh, you know you can't go on
Thinkin, nothin's wrong
Who's gonna drive you home, tonight...

>> 先になんて進めないよ
>> 何も悪くないなんて考えでは
>> 誰が君を家へ送っていくんだろう、今夜
>> ああ、これ以上どうしようもないってわかりだろう
>> 誰も悪くないなんて考えでは
>> 誰が君を家へ送っていくんだろう、今夜・・・


悲しみにくれているけど、どうしようもない、
これ以上恋人同士としてはやっていけない。
でも、こんな彼女のことを気にかけてくれる人がいるのかと
心配にもなっているという、

別れを決めていても、今だ戸惑っている切ない気持ちを
歌っています。

もう一度やり直すことができれば、
何か手助けになれば、
でも自分にはできないというもどかしさ。

おそらく、そんなもどかしい心情というのが、
一方でエチオピアなどで飢餓に苦しみ、
でもなかなか自分では何も助けられないという
捉えられ方もできたのでしょう。

繊細だけど、聴いている人の心に刺さる歌詞なんですよね。

音は、彼ら特有のキラキラしたシンセの音を使いながら、
静かにでも重くなり過ぎない、
歌詞の世界をうまく乗せられた音だと思います。

通常は、軽快なビートと、シンセを中心とした
時にコミカルにも聞こえる華やかなニューウェーブサウンドに、
爬虫類顔のリック・オケイセックの個性的ボーカルで聴かせる
ナンバーが中心となっている彼らですが、

この曲では、曲を書いたのはリックですが、
ベーシストのベンジャミン・オールの柔らかいボーカルと、
ストリングス風のサウンド、バックコーラスを交えた
せつせつと聴かせる曲になっています。


1949年メリーランド州ボルチモア生まれのリック・オケイセックと、
1947年オハイオ州レイクウッド生まれのベンジャミン・オールは、
70年代初め、オハイオ州コロンバスでともにデュオでのいく音楽活動をはじめ、
いくつかのバンド活動を経て、
その間に知り合った、キーボーディストのグレッグ・ホークス、
ギタリストのエリオット・イーストン、ドラマーのデヴィッド・ロビンソンの5人で、
ザ・カーズとしてバンド活動を始めます。

1976年にエレクトラレコードと契約を結び、
非常に個性的な曲とライブ活動で地道に支持を集め、

彼らがラジオ局に持ち込んだデモテープに入っていた、
「燃える欲望(Just What I Needed)」をDJが気に入り、
ヘビーローテーションしたことがきっかけで、
1978年、この曲をデビューシングルとしてリリースしました。
ちなみに、この曲のボーカルもベンジャミン・オールです。

この曲が全米で最高位27位のスマッシュヒットとなり、
この曲が収録されたデビューアルバム、
「錯乱のドライブ~カーズ登場(The Cars)」が、
長い期間をかけて、彼らの最大ヒットとなる600万枚のセールスを記録します。

1979年のセカンドアルバム「キャンディ・オーに捧ぐ(Candy O)」も
全米最高位3位、400万枚を記録するヒットとなり、

80年代に入ると、彼らのサウンドがより実験的に、
リックの個性的ボーカルとサウンドで、
ポップに聴かせるバンドとして、
よりメジャーな人気となっていきます。

おりしものMTV時代というのも、彼らを後押しし、
個性的なPVをたくさん作り始めます。

そういった勢いに、ポップさも加わった、
4枚目のアルバムタイトル曲、
「シェイク・イット・アップ(Shake It Up)」は、
初のTop5シングルとして、最高位4位を記録し、
日本でも、この曲あたりからラジオでのヒットを中心に
人気バンドとして確立していきます。

そして1984年、5枚目のアルバム、
「ハートビート・シティ」がリリースされました。
4枚目までのプロデューサー、ロイ・トーマス・ベイカーに代わり、
このアルバムからは、ハードロック系で知られる、
ロバート・ジョン・マット・ランジがプロデュースを手掛け、
ファーストシングルの「ユー・マイト・シンク(You Might Think)」(7位)、
セカンドシングルの「マジック(Magic)」(12位)は、
ともにリックの個性的なボーカルとポップなサウンドでシングルヒットし、
続く3枚目のシングルとしてリリースされた今回の曲で、
全米最高位3位と、シングルとして最大のヒットとなりました。

さらに、4枚目の「ハロー・アゲイン(Hello Again)」(20位)
(ニール・ダイアモンドの曲とは全く別物です)
5枚目の「ホワイ・キャント・アイ・ハブ・ユー(Why Can't I Have You)」(33位)と、
かなりマニアックな感じのシングルでもヒットを記録し、
バンドは大きな成功を収めました。
(86年の「グレイテスト・ヒッツ」後に、
6枚目のシングル「アイム・ノット・ザ・ワン(I'm Not The One)」もヒット)

ヒット曲の多彩さとともに、音楽の方向性も徐々に定まらなくなり、
1987年のアルバム「ドア・トゥ・ドア(Door To Door)」が、
思ったほどのヒットを記録せず、
また、リック、ベンジャミンそれぞれのソロ活動が始まったこともあってか、
1988年、明確な理由がわからないまま、バンドは解散してしまいます。

リックは、1988年のセカンドソロアルバム、
「ディス・サイド・オブ・パラダイス(This Side Of Paradise)」からの
「エモーション・イン・モーション(Emotion In Motion)」がTop10ヒットになったほか、
90年代から活躍しているアメリカの人気バンド、ウィーザーのプロデューサーとしても
手腕を発揮しています。

ベンジャミンは、1986年のソロアルバム、
「ザ・レイス(The Lace)」からのシングル、
「ステイ・ザ・ナイト(Stay The Night)」がTop40ヒットとなったものの、
その後は、サポートミュージシャンとしての活動が中心になりました。
残念ながら、2000年にすい臓がんのため他界しています。

ザ・カーズは、2005年にリック、ベンジャミン以外の3人のメンバーに、
トッド・ラングレンがボーカルで加わり、
トッドのいたユートピアのメンバーだった、
ケイシム・サルトン、プレイリー・プリンスとともに、
ニュー・カーズとして、1枚のアルバムとライブ活動を行い、
2010年には、再びリックがバンドに戻って、
ベンジャミン以外の4人のメンバーでのザ・カーズを再結成させています。
2011年には23年ぶりの新作アルバム、
「ムーブ・ライク・ディス(Move Like This)」をリリースしています。



今回でこのシリーズは一区切りとしますが、
これからも季節に聴きたいバラード曲は、
どんどんと紹介していきたいと思います。


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