夏の終わり・・・夕暮れ時にしっとりと聴きたい80'sヒットを
ちょっと続けて紹介していきたいと思いますね。


さて、前々回のクインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」は、
アーティストクレジットがプロデューサー自らのもので、
歌っているのも本人ではなく、ゲストボーカルによるものでした。

こういうケースというのは、90年代以降は特にこの傾向が強まって、
プロデューサーの名前が、曲を聴く基準になってみたり、
プロデューサー自らが好きなボーカリストなどを使って、
音楽を発表したものがヒットにつながることが多くなりました。

日本でも、小室哲哉を始めとして、小林武史や角松敏生といった人たちが、
プロデューサーとして自分名義のアルバム作品をヒットさせていましたね。

80年代にもクインシーをはじめとして、デヴィッド・フォスターなどが、
大きくその名前をクローズアップされたように、
特にAORでそんな傾向がみられたように思われます。

そんな時代に、ブラジル音楽で一時代を作った人気プロデューサーが、
新たな方向性で、ラブバラードの名曲を発表し、
大ヒットに結びつけたという曲を、今回紹介したいと思います。


セルジオ・メンデス「愛をもう一度」


60年代から、自らのバンド、ブラジル'66を率いて、
「マシュ・ケ・ナダ」など、
多くのブラジリアンポップスの名曲をヒットさせてきた、
オールドファンには「セルメン」という愛称で親しまれた、
キーボーディストでプロデューサー。


彼が新しい音楽の方向性として、バンドとブラジル音楽からあえて離れて、
1983年、当時成熟期にあったAORのアルバムを作成。

そのアルバムからのラブバラードであるこの曲が、
全米最高位4位と、アメリカでは彼の最大のヒット曲となりました。


①この曲はいわゆるPVは存在しないのですが、
 これは何らかのドラマの映像に音をかぶせたもののようです。
 面白いつくりです。




②ヒット当時に出演した音楽番組での映像。
 ショートバージョンになってます。
 セルメンのキーボードの前で、
 ボーカリストとして出演しているのは、
 レコード同様、ジョー・ピズーロとリザ・ミラーです。




③1984年東京の人見記念講堂での来日ライブより。
 セルメンが自らの作品を盛り立ててくれたボーカリストとして、
 この時初来日となったジョー・ピズーロを大々的に紹介しています。
 ここでの女性ボーカルはケイト・ヤナイがつとめています。



☆Sergio Mendes "Never Gonna Let You Go" from the album "Sergio Mendes"
 1983年Billboard Hot100 最高位4位


I was as wrong as I could be
To let you get away from me
I'll regret that move
For as long as I'm living
But now that I've come to see the light
All I wanna do is make things right
So just say the word
And tell me that I'm forgiven

>> ボクはありとあらゆる過ちを犯してしまった
>> だから君がボクから離れていったんだね
>> こんな自分をずっと情けなく思うよ
>> ボクが生きている間ずっとね
>> でも今ボクのもとに見えてきた光は
>> ボクの行いすべてを正してくれる
>> だからただこの言葉を言ってほしい
>> ボクを許してくれると

You and me
We're gonna be
Better than we were before
I loved you then but now I intend
To open up
And love you even more
This time you can be sure

>> 君とボク
>> ボクらはもっと
>> 前よりもすばらしい関係でいられるだろう
>> ボクは君を愛していた、でもこれからのボクは
>> 心を開いて
>> 君を今まで以上に愛するよ
>> 今度は君にもきっとわかるだろう

I'm never gonna let you go
I'm gonna hold you in my arms forever
Gonna try and make up for the times
I hurt you so
Gonna hold your body close to mine
From this day on we're gonna be together
Oh, I swear this time
I'm never gonna let you go

>> もう君を離さないよ
>> 永遠に僕の腕の中で抱きしめていよう
>> 手を尽くして償っていきたい
>> 君を傷つけてきた過去を
>> 君の体をボクに近づけて抱きしめよう
>> 今日この日からボクらは共に歩んでいこう
>> ああ、この時ボクは誓うよ
>> もう君を離さないよ

Looking back now it seems so clear
I had it all when you were here
Oh, you gave it all
And I took it for granted
But if there's some feeling left in you
Some flicker of love that still shines through
Let's talk it out
Let's talk about second chances

>> 今振り返ると、何もかもがはっきり見えてくるわ
>> あなたがここにいたからそれで十分だった
>> ああ、あなたが全てを捧げてくれたから
>> そしてそれが当然のことと思っていたわ
>> でももし君の中に何かの想いが残っているなら
>> 愛の揺らめきがまだ輝き続けているのだから
>> どうか話をしてほしい
>> もう一度やり直そうって話を

Wait and see
It's gonna be
Sweeter than it was before
I gave some then but now I intend
To dedicate
Myself to giving more
This time you can be sure

>> 見守ってほしい
>> 以前の私たちよりも
>> ずっと素敵な関係になっていくでしょう
>> これまでのあなたに尽くしてきた、でもこれからの私は
>> 想いをこめて
>> 私自身をもっと捧げていくわ
>> 今度はきっとあなたにもわかるはず

I'm never gonna let you go
I'm gonna hold you in my arms forever
Gonna try and make up for all the times
I hurt you so
Gonna hold your body close to mine
From this day on we're gonna be together
Oh, I swear this time
I'm never gonna let you go

>> もうあなたを離さないわ
>> 永遠に私の腕の中で抱きしめていましょう
>> 手を尽くして償っていきたい
>> あなたを傷つけてきた過去を
>> あなたの体を私に近づけて抱きしめましょう
>> 今日この日から私たちは共に歩んでいくの
>> ああ、この時私は誓うわ
>> もうあなたを離さないわ

Ooooooh-oh-oh-oooh
So if you'll just say you want me too

>> ああ、だからあなたにも言ってほしい、私を欲しいのだと

I'm never gonna let you go
I'm gonna hold you in my arms forever
Gonna try and make up for all the times
I hurt you so
Gonna hold your body close to mine
From this day on we're gonna be together
Oh, I swear this time
I'm never gonna let you go

>> もう君を離さないよ
>> 永遠に僕の腕の中で抱きしめていよう
>> 手を尽くして償っていきたい
>> 君を傷つけてきた過去を
>> 君の体をボクに近づけて抱きしめよう
>> 今日この日からボクらは共に歩んでいこう
>> ああ、この時ボクは誓うよ
>> もう君を離さないよ

Never gonna let you go
Hold you in my arms forever
Gonna try and make up for all the times
I hurt you so
Hold your body close to mine
From this day on we're gonna be together
Oh, I swear this time
I'm never gonna let you go

>> もう君を離さないよ
>> 永遠に僕の腕の中で抱きしめていよう
>> 手を尽くして償っていきたい
>> 君を傷つけてきた過去を
>> 君の体をボクに近づけて抱きしめよう
>> 今日この日からボクらは共に歩んでいこう
>> ああ、この時ボクは誓うよ
>> もう君を離さないよ


この曲、曲中の転調が半端でなく、
きっと歌うのが難しいだろうなと思いつつも、
曲の雰囲気を見事に演出したメロディなんですよね。

訳詞のそれぞれのソロのところでは、
男側から、女側からと言葉を使い分けてますが、
サビのハモリのところは、一番は男側が、
二番は女側がリードをとっているので、
同じ歌詞でも、それぞれにあわせて書いてみました。


この曲を作詞作曲したのは、
ライチャス・ブラザーズの「ふられた気持(You've Lost That Lovin' Feelin')」や、
のちにリンダ・ロンシュタットとジェイムズ・イングラムがヒットさせる、
「サムホエア・アウト・ゼア(Somewhere Out There)」などで知られる、
夫婦ソングライターチームの、バリー・マンとシンシア・ウェイルの二人です。

オリジナルは、1982年のディオンヌ・ワーウィックのアルバム、
「フレンズ・イン・ラブ(Friends In Love)」の収録曲で、
こちらのアルバムでの邦題は「もう、はなさない」。
プロデューサーは元エア・プレイのジェイ・グレイドンと、
こちらもこてこてのAORという感じで作られていました。


セルジオ・メンデスは、1941年ブラジル・リオデジャネイロ生まれで、
今年70歳になりました。

もともとはクラシックのピアノを勉強していたものの、
自国を代表するアーティストである、アントニオ・カルロス・ジョビン、
ジョアン・ジルベルトから大きな影響を受けて、
ボサノヴァのピアニストとしての道を目指していくことになります。

1961年にセクステット・ボッサ・リオというバンドを結成して、
初のレコードを発表。
アントニオ・カルロス・ジョビンらと活動を共にし、
1965年にはアメリカにわたり、ブラジル'65というバンド名で、
アルバムを発表します。

翌年、ジャズ、フュージョンポップのアーティストで、
A&Mレコードの副社長である、ハーブ・アルパートの誘いで、
このレーベルからのファーストアルバムを、バンド名をブラジル'66として、
「ブラジル'66(Herb Alpert Presents Sergio Mendes and Brasil '66)」
というタイトルで発表します。

このバンドには、ハーブ・アルパートの奥さんである、
ラニ・ホールがボーカルとして参加し、
彼の音楽のボーカルの核となっていきます。

このアルバムに収録された、1963年のジョルジェ・ベン・ジョールのカバー曲、
「マシュ・ケ・ナダ(Mas Que Nada)」が世界中で大ヒットし、
一躍彼の名前を有名にします。

1968年には、映画「007/カジノ・ロワイヤル(Casino Royal)」の主題歌で、
前年にダスティ・スプリングフィールドがヒットさせている、
「恋のおもかげ(The Look Of Love)」をカバーし、
オリジナルを越えて、全米最高位4位という大ヒットを記録しました。

ボサノヴァ、サンバのテイストを大事にしつつ、
ビートルズのカバーなど、ロックポップスとの積極的融合で、
独自のブラジリアンポップスアーティストとして、
日本でも「セルメン」と呼ばれ、大人気だった彼。
1970年には、大阪万国博のステージで来日も果たしています。


そんな彼が、70年代以降、色々なテイストでアルバムを発表するも、
一時スランプに陥って、1979年にアルバムを発表して以降、
休養状態に入ってしまいます。

そこで、これまでのブラジル'66のバンド活動とブラジル音楽から離れ、
アメリカでのポップミュージックの製作に力を入れるようになり、
そうして生まれたアルバムが、今回の曲を収録している、
1983年リリースの「愛をもう一度(Sergio Mendes)」でした。

このアルバムで、セルジオが自らシンセキーボードを演奏しているほか、
ロビー・ブキャナンやマイケル・ボディッカーもキーボード参加し、
他に、「マニアック(Maniac)」のマイケル・センベロがギターで参加したり、
その弟のダニエル・センベロもボーカルで参加しているなど、
豪華なメンバーでアルバム作成されています。
先日のクインシーのアルバムにも参加していた、
ルイス・ジョンソンやカルロス・ベガ、ジェリー・ヘイ、ネイザン・イースト
といった人たちの名前も見られます。

この曲は、これまでのブラジルサウンドとは一線を画し、
AORバラードのスタンダードナンバーとして、
アメリカで15年ぶりのシングルヒットとなる、最高位4位を記録して、
「恋のおもかげ」と並び、彼のアメリカでの最大のヒットとなりました。

この曲のボーカルをとっているデュエットは、
Heatというバンドでボーカルをとっていたジョー・ピズーロと、
リザ・ミラーという二人のセッションシンガーです。

ジョーはこの曲での成功をきっかけに、
翌年1984年のセルジオのアルバム「オリンピア(Confetti)」では、
大々的にボーカリストとしてフィーチャーされており、
ロサンゼルスオリンピックをイメージして作られた「オリンピア(Olympia)」や、
Top40ヒットとなった「君のアリバイ(Alibis)」などが、
ヒットしました。

ジョーはその後もバルセロナオリンピックのオフィシャルソングを歌ったり、
デヴィッド・フォスターのアルバムにもボーカリストとして参加。
竹内まりやの英語カバーアルバム「Sincerely~MARIYA TAKEUCHI SONGBOOK」では、
マリリン・マーティンと「天使のため息」をデュエットしています。

リザはマイケル・センベロのアルバム「マニアック(Bossa Nova Hotel)」など、
多くのアルバムでセッションシンガーとして活躍しているようです。


2000年代に入り、ブラジル2005として新たな活動を続けているセルジオは、
2006年にR&B、ヒップホップなどの多くのゲストアーティストとコラボした、
セルフカバーアルバム「タイムレス(Timeless)」が、
日本を始め、世界中で大ヒットし、
ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムとファーギーが参加した、
「マシュ・ケ・ナダ」のヒップホップカバーは、
ラジオでもかなりオンエアされていました。

2006年と2008年には来日公演も果たし、日本のテレビにも出演するなど、
現在もアルバム製作やライブ活動を積極的に続けています。



次回は、1981年にジャズ・フュージョン界で人気の二大アーティストが手を組んで、
ヒットさせた、ブラコンテイストのスムーズバラードを紹介しますね。

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