6月に入りました。

衣替えの季節ですが、梅雨の影響でか、思わぬ寒さで、
出かけるときの上着がまだまだ必要な今日この頃。

こないだまでは、蒸し暑くて、この夏はどうなるだろうなんて話を
していたのに。


というわけで、今月は、先月からの引き続きの歌姫シリーズを
もう少し続けていくのと、雨の季節の特集や、
その他もろもろといつも通りにやっていきたいと思っています。


今回のアーティストは、70年代末に登場し、
当時まだシーンの中で限られていた、
女性ハードロッカーという独自のスタンスと、
圧倒的ボーカルの強さで、80年代にかけてコンスタントに活躍した、
個人的にも思い入れのあるボーカリストの曲を紹介します。


パット・ベネター「ファイアー&アイス」


ニューヨーク州ブルックリン出身で、1979年にデビュー。
女性ハードロックボーカリストとして、
早くから注目を集め、80年代半ばにかけて、
多くのヒットアルバムと、4つのグラミー賞も獲得している、
激しさとクールさを兼ね備えた魅力を持ったシンガー。


この曲は、3枚目のアルバムにして、全米No.1を獲得したアルバム、
「プレシャス・タイム(Precious Time)」からのファーストシングルで、
彼女の最大の魅力である、ボーカル力の強さが、
激しさとクールさ、妖艶さと純粋さといった相反する形で展開され、
メロディの切なさとともに伝わってくる、ロックナンバーです。


スタジオライブの形をとっているPVです。
それまで比較的濃い目のお化粧だった彼女が、
比較的素に近い形でボーカルをとっているのが印象的。
間奏でかっこよくギターを弾いているのが、
彼女のだんな様、ニール・ジラルドです。



☆Pat Benatar "Fire & Ice" from the album "Precious Time"
 1981年Billboard Hot100 最高位17位


Ooo, you're givin' me the fever tonight
I don't wanna give in
I'd be playin' with fire
You forget, I've seen you work before
Take `em straight to the top
Leave `em cryin' for more
I've seen you burn `em before

>> ああ、今夜はあなたが私を夢中にさせようとするのね
>> でもあなたに屈服するなんてごめん
>> ただ火と戯れているだけにするわ
>> 忘れたのね、昔はちゃんと働いていたというのに
>> 頂点を目指してまっすぐ進んでいた
>> ずっと泣かされてきたわ
>> 昔のあなたは燃えていたというのに

Fire and Ice
You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice
I wanna give you my love
But you'll just take a little piece of my heart
You'll just tear it apart

>> 火と氷
>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね
>> 私はあなたに惜しみない愛を与え
>> でもあなたは私の心のかけらを奪っていこうとしている
>> ただ二人を切り裂くために

Movin' in for the kill tonight
You got every advantage
When they put out the lights
It's not so pretty when it fades away
Cause it's just an illusion
In this passion play
I've seen you burn `em before

>> 今夜打ちのめしに向かうのね
>> あなたには十分なアドバンテージがあるわ
>> 街の灯りが消えている間はね
>> 日暮れてからなんてかわいくないよね
>> だってそんなのあなたの思い込み
>> このもがき苦しみの中で
>> 昔のあなたなら情熱で刃向かってたはずよ

Fire and Ice
You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice
I wanna give you my love
But you'll just take a little piece of my heart

>> 火と氷
>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね
>> 私はあなたに惜しみない愛を与え
>> でもあなたは私の心のかけらを奪っていこうとしている

So you think you got it all figured out
You're an expert in the field, without a doubt
But I know your methods inside and out
And I won't be takin' in by Fire and Ice

>> そうあなたは全てわかっていると思ってる
>> あなたはこの地では敵なしね、掛け値なしに
>> でもあなたが手に入れたものもいずれ失っていくと思うの
>> だから火と氷の力で手に入れようなんて私はしないわ

Fire and Ice
You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice
I wanna give you my love
But you'll just take a little piece of my heart

>> 火と氷
>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね
>> 私はあなたに惜しみない愛を与え
>> でもあなたは私の心のかけらを奪っていこうとしている

You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice
I wanna give you my love
But you'll just take a little piece of my heart

>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね
>> 私はあなたに惜しみない愛を与え
>> でもあなたは私の心のかけらを奪っていこうとしている

You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice
You come on like a flame
Then you turn a cold shoulder
Fire and Ice

>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね
>> 炎のように燃えていたあなた
>> でも振り返ると冷たい姿
>> 火と氷のようね


結構難しい訳だったです。
特に2番の歌詞の訳は、自分では今ふたつぐらい納得がいってないですね。
熱い心をもっていたはずの好きだった人が、
簡単に人を欺くような冷たさも持ち合わせていた。
自分に自信があるのだろうけど、
もう一度熱かったあなたに戻ってほしい。

そんな気持ちを歌った曲なんだと思います。

彼女の声は、一見パワーで押し切るタイプの声のようですが、
ファルセットになるところでの色気とか、
情感の使い方がすごく巧みで、ぶれないところがすごいなと
いつも思う声なんですよね。
幼少時代からいやいやながら勉強していたオペラ発声や、
クラシック音楽がこういうところで生かされているんじゃないかな。


パット・ベネターは、本名がパトリシア・アンジェイエフスキー。
この苗字のとおり、ポーランド系アメリカ人の厳格な両親のもと、
本当ならロックが好きなはずが禁止され、
幼少時からオペラ声楽とクラシックを勉強していました。

大学を中退後に結婚し、銀行の出納係をしていたものの、
ライザ・ミネリのコンサートに触発され銀行をやめ、
ナイトクラブの歌手として歌い始めます。
このとき結婚していた相手とは、デビュー後の1979年に離婚しますが、
このときの苗字の「Benatar」を以降も芸名として使用していきます。

1975年に「Catch A Rising Star」というエンターテイメントステージの
オーディションに合格し、デビューまでの数年間専属歌手として、
このステージで歌いながら人気を確立していきます。

1979年にレコード契約を結び、ファーストアルバム、
「真夜中の恋人達(In The Heat Of The Night)」を発表。

当時はまだニューウェーブロックシンガー的扱いでしたが、
数少ない女性ロックボーカリストとして、
パティ・スミスやスージー・クアトロ、デボラ・ハリーとも違う、
張りがあり、シャウトしてもファルセットになっても
声がぶれずストレートに伝わる歌唱力をもったシンガーでした。

このデビューアルバムが話題を呼び、セカンドシングルであり、
彼女の代表曲のひとつでもある、ハードドライビングなナンバー、
「ハートブレイカー(Heartbreaker)」がシングルヒットし、
一気に人気を確立します。

続くセカンドアルバム「危険な恋人(Crimes Of Passion)」は、
全米最高位2位で500万枚をセールスする大ヒットアルバムとなり、
ここからのシングルで、やはり彼女を代表する1曲、
「強気で愛して(Hit Me With The Best Shot)」が、
初のTop10入りシングルとなり、グラミー賞も獲得します。

今回の曲は、1981年発表の3枚目のアルバム、
「プレシャス・タイム」に収録された曲で、
彼女とギタリストのスコット・シーツ、作曲家トム・ケリーによる作品で、
彼女のバンドのリードギタリストであり、2人目のだんな様でもある、
ニール・ジラルドが初プロデュースした作品です。

アルバムからは、「見つめあう夜(Promises In The Dark)」もヒットし、
こちらもグラミー賞受賞作となりました。

このあとも、サウンド的にはよりポップな方向には向かうものの、
「ゲット・ナーヴァス(Get Nervous)」や「トロピコ(Tropico)」、
「セブン・ザ・ハード・ウェイ(Seven The Hard Way)」といったアルバムが、
次々とヒットを記録し、
特にシングルでは、「愛の嵐(Love Is A Battlefield)」や、
「ウィ・ビロング(We Belong)」といったTop5ヒットも生まれ、
よりファンの幅を広げていきつつ、ずっとロックを追いかけた曲を、
80年代末にかけてヒットさせてきました。


ボクが今回、「ハートブレイカー」でも「強気に愛して」でもなく、
この「ファイアー&アイス」を選んだのは、
大学時代、まだ「全米Top40」を聴き始める前に出会ったのがこの曲で、
リンダ・ロンシュタットもそうだったけど、圧倒的力で引っ張っていける
彼女の声とかっこいい音の魅力に一気に夢中になった思い出があるからなんです。

「全米Top40」を聴き始めてからも、しばしば彼女の曲や話題がラジオから流れ、
常に心から離れないシンガーの一人として、記憶にとまっている人です。

番組中でも来日してくれないかなどという話題もしばしば登場し、
そういったうわさも何度か流れたものの、ついに全盛期に来日してくれることは
ありませんでした。


90年代以降、セールス的には落ち着いたものの、2003年のアルバム「Go」まで、
コンスタントにアルバムを作り続け、
現在も精力的にアメリカ全土を回るツアーをブロンディや
REOスピードワゴンらとともに続けているそうで、
そうであれば、一度小さい会場でいいから日本にも来てくれないかなと
願っています。

一昨年には、デビュー30周年記念のコンサートツアーとともに、
自叙伝なども出版し、夫婦そろってTVに顔をそろえるなど、
元気にがんばってくれている彼女をこれからも応援したいと思います。


この記事をかいている途中で、そういえば彼女も参加していたなあと、
80年代半ばに数多く出たチャリティシングルの中でも異彩を放っていた、
南アフリカのアパルトヘイト政策に反対するアーティストたちによる、
「サン・シティ(Sun City)」のことを思い出しました。

作者の一人であるリトル・スティーヴン(スティーブ・ヴァンザント)を中心に、
アフリカ・バンバータやRun DMC、グランドマスターフラッシュなど、
初期のラップヒップホップアーティストや、
エディ・ケンドリックス、デヴィッド・ラフィン、ジョージ・クリントン、
ハービー・ハンコック、ボビー・ウーマックなどR&Bの強者たちと、
ボブ・ディラン、ルー・リード、ブルース・スプリングスティーン、
ボノ、ジャクソン・ブラウン、ジョーイ・ラモーン、ホール&オーツなど
錚々たる男性メンバーたちに交じり、
パット・ベネターとボニー・レイット、ノナ・ヘンドリックスといった、
強力な女性ヴォーカリストの存在も光っていました。

機会を見て、一度紹介しないといけないですね。


さて、次回の歌姫シリーズは、人気ロックバンドのリード女性シンガーの一人で、
このパット・ベネターとは対照的なだみ声と妖艶な魅力で人気の高かった、
こちらもボクの大好きな女性シンガーをとりあげます。


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