第4882回「「殿様は「明治」をどう生きたのか」　河合敦著　扶桑社」

福井藩主だった松平春嶽は、やることに凄みがあります。坂本龍馬が勝海舟に会うとき、春嶽の紹介状がなければ会えず、勝を斬りに行った龍馬が一転勝の弟子になるという有名なエピソードは実現しなかったでしょう。しかも春嶽は、龍馬が勝を殺しに行くことを察しながら、勝が龍馬を言いくるめるだろうと予測していたようなのです。同時に口では、「勝を斬る」と憤っている龍馬の本質を見抜いたのかもしれません。春嶽・龍馬・勝・・・登場人物が、すでにドラマですね。しかし・・・と、僕は思うのです。そもそも、なぜ龍馬が春嶽に会えたのか？

維新後の春嶽は、徳川家の存続に奔走します。慶喜や松平容保らが生き残ることができたのは春嶽のおかげでしょう。

春嶽の維新に対する貢献は、とてつもなく大きなものがあります。しかし、新政府の対応はそっけないものでした。最初は、新政府の議定となり内国事務総督を兼務しますが、春嶽の徳川家の処置に対する建白書は悉く採用されず、明治3年42歳で住職から退き、以後中央に復帰することはありませんでした。その後の春嶽は、執筆に精力を注ぎ込みました。自身の伝記、見聞記、江戸幕府の制度や慣例、福井藩主の伝記、徳川家達への教訓書、偉人達の逸話週などなど。読んでみたいですね。

尾張藩主だった徳川慶勝は、井伊直弼の日米修好通商条約調印に抗議したため隠居を命じられます。その後、慶勝は写真に興味を持ち、貴重な作品を残しました。戊辰戦争では、弟たち松平容保（会津藩主）、松平定敬（桑名藩主）、一橋茂栄（徳川茂徳）と記念写真を撮っています。

慶勝は、禄を失って困窮する旧藩士を憂い、帰農の資金援助をしたり、名古屋に繊維工場や養蚕場を建設し名古屋士族の子女を就労させたり、旧尾張藩士による北海道開拓事業に取り組んだりしました。

徳川家達は、徳川宗家の16代当主になります。13代将軍家定の正室・天璋院篤姫が熱心に教育にあたり、そのためもあってか、15代慶喜を嫌っていた気配があります。常々「慶喜は徳川を潰した人、私は建てた人」と言っていたそうです。彼の主張は、徳川家は15代で終わり、家達は、明治天皇のお慈悲をいただき、新たに家を建てたということになります。

のちにイギリスに留学しロンドンのシドナム・カレッジに学びます。英語だけではなくフランス語にも堪能になります。留学時代にはイギリス人女性と恋をしたようです。

帰国後は、勝海舟の勧めもあって政治の世界には進まなかったのですが、後年勝の死後、1903年（明治36年）に貴族院議長に就任します。家達は、その議長職を、明治大正昭和の3時代、計31年間勤めました。大正3年には、「内閣を組織するように」との大命が降下しますが、「私は総理の器ではない」として辞退しています。大正10年（1921年）のワシントン軍縮会議の全権となり、海軍軍縮条約の締結に尽力しています。

また、昭和10年にはオリンピック東京大会の招致委員会会長となり、1940年の東京開催を勝ち取っています。しかし、その後の日中戦争の泥沼化で東京大会は開かれませんでした。

このように、殿様達のその後は、なかなか興味深かったです。

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以下は、第6回の動画です。↓

第4882回「「殿様は「明治」をどう生きたのか」 河合敦 著 扶桑社」

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