どれくらいの時間が経ったのだろう。ふと顔を上げると、アツくんは何事もなかったように、改札口の方をむいていた。

肩の力が抜けた。失望感と安堵感。どちらの気持ちが強いのかはわからないし、考えようともしなかった。

アツくんの右耳の後ろが見える。耳にかかるかかからないくらいの髪の長さ、耳の後ろに小さなホクロがひとつ。

“お姉は知ってたのかな、ホクロ…。”

頭の中は熱が引いたように、覚めているのを感じた。

“それにしても、その荷物。”
アツくんはやたらと大きな紙袋を足元に置いていた。気づかれないように覗き込んでみた。お姉の好きだった花のアレンジメント。

“この荷物持って新幹線に乗れっていうの?”
思わず笑いがこみ上げてきた。

冷静さを取り戻しつつあった。



時間を確かめるつもりだったのか、アツくんが携帯を取り出して開いた。碧い色が目に飛び込んできた。

お姉の携帯を開く。1メートルも離れていない距離で2つの碧い空がシンクロした。お姉が上っていく空。

はっきりと心が決まった。この後、なにをするべきかもわかった。

あと五分で予定の新幹線が到着するはずだ。その間に…。