『ありがときれいな空だね東京では見られないなぁ
もしかしたら、退院の日とかに撮ったのなんかマミが自由になれたよぉ…って言ってるみたいな、清々しい空の色みたいな気がして
待ち受けに設定したからね
行ってきまーす』
“やっぱり。”
思った通りの「きれいな空だね」の文字に思わず笑みがこぼれる。
お姉の住んでいた家は貸しに出すことにしていた。幸い借り手はすぐに見つかった。旦那の仕事関係の会社が、社宅として借り上げてくれることになったのだ。今日は家を見にくることになっていた。
お姉が遺していた手紙は3通だった。武宛て、母親宛て、そして私宛ての3通。武と母親宛ての手紙の内容は読んではいないが、だいたいの想像はつく。私宛の手紙には、簡単な別れの挨拶と、事後の処理に関して、本当に細かく書かれていた。
母親と相談して、その通りに進めていた。
“やっぱり、お姉…すごい。”ほぼ全てのことについて書かれていた。自分が大切にしていたものの処分から、武の将来のことまで。離婚調停の末に元旦那さんから勝ち取った家は、貸してその家賃を武の生活費や教育費に充ててほしいと書いてあった。
そして、その指示通りに進めていくと、だんだんとお姉の存在が薄くなっていくような気がした。
“とうとう家まで…。”
お姉とよくおしゃべりをしたあの部屋、離婚を相談されたのも、病気のことを聞かされたのもあの部屋だった。全く知らない人があそこで暮らすなんて、想像できなかった。