「それで──ニューヨークへはいつ来られる?」
その台詞は、仕事も何もかも捨ててついて来い──と同義だった。
テリュースは煙草に火をつける。
「仕事の引き継ぎと挨拶が済んだら──」にも拘わらず、まるで用意していたかのようにキャンディは即答した。「その日の夜行に飛び乗るわ」
煙草を持ったまま、テリィは黙った。
「この一週間がなかったら、迷わずついていったかも」
今日はその最後の夜である。これ以上休暇は延ばせない──公演に穴をあけてしまう──ぎりぎりの。
「でも、やっぱりそれは不義理よね」
「へえ……君、行動は無鉄砲だけど真面目なんだね」
テリィは煙を深く吐いた。少し唇を尖らせて。
昔から本心が露骨に態度に出る性質(たち)だった。今はこれでも、十年前の五分の一だ。
「だって……あなたはもう、私から離れていかないもの」キャンディは言葉をひとつひとつ嚙み締める。「これからは、ずっと、そばにいてくれるもの」
半分だけ開けられているカーテンから、朧(おぼろ)な月が覗いている。彼の瞳が潤んだような澄んだ藍。
「それってさ」テリィは煙草の火を消して、微かに微笑む。
「君からのプロポーズだと受け取っていいのかな?」
それから返事を待たず、白いうなじに顔を沈めた。
私のテリィ──と言っても良いの?
誰はばかることなく、貪欲に溢れ出る想いを心の中で口にする。
片翼を捥がれたカナリアが、奇跡のように羽搏くように。
永遠に続く青空に向かって──