ひっそりと、すごいことが起きた。
私は仕事場まで20分程歩いている。
土曜日の今日、いつも通り歩いていた。家を出て、かなりの距離、赤信号で引っかからずに行けた。
とうとう赤信号に引っ掛かり休憩がてら立ち止まっていると、
右側から、私と同年代の男性が片手にコーヒーを持って、前を通り過ぎて行った。
ん?
何か、遠い昔、まだ20代半ばだったころの懐かしい風がその方と一緒にふわっ...
え⁈
確かに、いや、もわっと、顔の記憶が蘇る。
今から約30年前のこと、お付き合いをするには至らなかったが、しばらくの間、無言で微かに心を通わせた彼だった。
年月が経ったことを物語る彼の変貌ぶりだった。
彼は小さなコーヒーショップの雇われ店長だった。昨今のようにスタバやシアトルズがまだ無かったころ、「これから先は北米で流行っている大手カフェチェーン店が日本に押し寄せてくるんだ。」と話していた。彼は自分のカフェを経営することが夢だった。
あれから約30年。
当時私は服飾デザイナーになることを夢見ていた。
二人で夢を語り合ったものだ。1度だけ、こじんまりとしたフランス料理店で二人してご飯を食べたことがあったが、私は緊張して文字通り食べ物が喉を通らず、ジビエ料理を味わうことができなかったのだった。
今は何をしてるのかな~
私には、夫がいて20歳の娘と17歳の息子がいる。最愛の母は亡くなった。
彼と会わなくなって、いろんなことがあった。
そして私は今、新たな挑戦を楽しんでいる。
彼は、私の人間としての成長ぶりを伝えるために私の前に現れてくれたのか。
「気が付けば、ずいぶん遠くまで歩いて来ていたんだな。」
まさか、今更、彼に恋心は復活しなかったが、逆に、家族が愛おしく思えた。
私はめちゃくちゃ幸せなんだ
今日一日、幸せな気分で仕事ができた。
仕事を終えての帰路。
彼を見かけた朝の横断歩道、また赤信号で引っかかった。
「ここで彼は現れたんだよな~」なんて、朝と反対の方を見やると、な・なんと
あの彼が
今度は若い女性と一緒に、こちらに歩いてくるではないか。
お酒を飲んだのか、顔が少し赤かった。
楽しそうに話しながら、前を通り過ぎていった。
こんなことって
ある?
何はともあれ、あちらさんもお幸せそうで何よりでございました。
ちゃんちゃん