ある日の夜。
その日も、彼女は私の下宿に帰ってきてくれました。
体調は、全く良くなる気配もなく、学校へも行けていませんでした。
彼女に言われました。
「お母さんに、打ち明けてみれば?」
私は拒否しました。
親に話してどうなるものでもあるまい。
無駄な心配をかける必要もあるまい。
こんな情けない話、進んでできるわけがない。
しかし、その日の彼女は頑なでした。
私のケータイを取り上げ、無理やり親に電話をかけたのです。
呼び出し音がなると、私の耳にケータイを押し付けてきました。
「もしもし?」母親が出ます。
この時、私の口から、自然と言葉が出てきました。
「お母さん、僕、うつ病になっちゃったみたい。」
涙で、言葉になっていたかどうか不明ですが、母親には聞き取れたようです。
「そうか、無理しなくていいんだよ。嫌なら大学やめたらいいよ。」
・・・
その時、私の体を支配していた鉛色の意識が、サーっと地面に抜けていくのがわかりました。
鉛色から、薄い水色のような意識に変わりました。
そうか。やめていいんだ。逃げていいんだ!
母の、たった一言二言で、機能を停止していた私の思考回路が動き始めました。
その後は、母と何を話したのか覚えていません。
ただ、電話を切った時、それまでの私とはまったく違う自分がそこにいたのでした。