研究室の居心地は最悪。
自分の実験も興味が湧かない。
セミナーは怖くて仕方ない。
私の目指している創薬研究者というのは、こんな興味の湧かないことを一生涯やり遂げるということなのだろうか・・・。
そんな負の感情が常に頭をよぎっていました。
いつしか、その負の感情は具体的な意味を失い、ただ漠然とした嫌な感情という鉛のような意識が、私の脳内を支配していました。
何も考えることはできません。
頭の中は、グレーの濃い霧で埋め尽くされています。
生物としての、基本的な欲求すらわきません。
これほど、グレーの霧は強く、強く私の脳を支配しています。
学生居室の自分の机、実験台に突っ伏して、ひたすら唸っていたでしょうか。
下宿との往復中、一度信号無視をしてしまったかもしれません。
いや、したかどうかすらわからないのです。
信号の色すら、頭の中に入ってこないのです。
何も考えることはできません。
食欲もわきません。
1週間で体重が5kgも減りました。
そして、ついには大学へ行くことができなくなりました。
朝起きると、脳から漏れ出した鉛の意識が、身体中に浸潤し、体全体が鉛になっていたのです。
朝7時、持てる力を最大限振り絞り、蚊の鳴くような声で教授に電話をします。
体調が悪いので休ませてください。
教授も、日頃から私の異変に気付いていたのでしょうか。
休んでいい、心配していると言った言葉をかけてくださったような気がします。
しっかりとは覚えていません。
そんな日が2、3日続きました。