●前回の号外でお話ししたように、民法は想像力を逞しくして、自分の生活や職場環境から具体的なシチュエーションを思い浮かべて勉強してみてくださいね。友人、家族、ライバル、顧客、行きつけのお店のママ、愛人、恋人、同僚、部下、何でもいいから具体的な場面に置き換えて考えてくださいね。

 

心裡(しんり)留保(りゅうほ)

その気がないのに契約してしまうこと。心裡留保は原則有効。

 

●パターン1

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェの新車を90万円で売る約束をした。Bは少し安いと思ったが、Aが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたのであながちジョークではあるまいと思い、Aに90万円を支払った。Aは約束を覆せるか。

 

答:AとBとの取引は有効です。Aは約束を覆せません。

 

●パターン2

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェを90万円で売る約束をした。BはAが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたものの、まさかポルシェが90万円で買えるわけはないと知りつつ、Aに90万円を支払った。Aは約束を覆せるか。

 

答:AとBとの取引は無効です。パターン1との違いは、BAの約束を冗談だと知っていた、すなわちBはイノセントでない点です。

 

●パターン3

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェの新車を90万円で売る約束をした。Bは少し安いと思ったが、Aが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたのであながちジョークではあるまいと思い、Aに90万円を支払った。Bはさらにこのポルシェを何も知らないCに売った。Aは約束を覆せるか。

 

答:AはCに対してポルシェを返せといえません。BもCもイノセントです。守ってあげましょう。

 

●パターン4

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェの新車を90万円で売る約束をした。Bは少し安いと思ったが、Aが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたのであながちジョークではあるまいと思い、Aに90万円を支払った。BはさらにこのポルシェをAの友人Cに売った。CはAがいつもの冗談を言ったのだなと気付いていた。Aは約束を覆せるか。

 

答:AはCに対してポルシェを返せといえません。パターン3との違いはBはイノセントだけれどCがイノセントでない点です。ところがです。イノセントなBのおかげでCもその恩恵を被ります。

 

●パターン5

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェを90万円で売る約束をした。BはAが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたものの、ポルシェが90万円で買えるわけはないと知りつつ、Aに90万円を支払った。Bはさらにこのポルシェを何も知らないCに売った。AはCにポルシェを返せといえるか。

 

答:AはCに対してポルシェを返せといえません。パターン3との違いはBがイノセントでなく、Cのみがイノセントな点です。イノセントなCは守ってあげましょう。

 

●パターン6

問:Aは冗談のつもりでBに自分のポルシェを90万円で売る約束をした。BはAが最近ネット投資で巨額の利益を得たと聞いていたものの、ポルシェが90万円で買えるわけはないと知りつつ、Aに90万円を支払った。BはさらにこのポルシェをAの友人Cに売った。CはAがいつもの冗談を言ったのだなと気付いていた。AはCにポルシェを返せといえるか。

 

答:AはCに対してポルシェを返せといえます。パターン3との違いはBもCもイノセントでない点です。Cを守る必要はありません。

 

★ちょっと一言:心裡留保のところでは、取引が続くとき、「過去の善で、後の傷は癒される」「過去の傷は、後の善で癒される」というパターンが出てきます。善意・無過失→悪意(例題のパターン4)は有効です。また、善意・有過失または悪意→善意(例題のパターン5)も有効です。常識を使うのとパターンを読んでしまうのがコツです。パターン化は、二重譲渡の場合や、時効とその後の第三者などの関係を理解するのにも役立ちます。

 

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