離院患者を院外、しかも市堺付近で見つけることができたことで、俺とオグラさんは若干テンションが高かった。努めて冷静に振る舞ってはいるが、警察沙汰にならなかったこと、何よりヒカルが無事に戻ってきたことが嬉しい。カミヤマさんも関係各部署にひっきりなしに電話を入れている。

そんなざわついた病棟にあっても、彼は微動だにせずにカルテの山の向こうで微笑んでいた。

Dr.フィールグッドだ。

今までの経緯を2人で説明する。
いつも通りこちらの話を全て聞いたあとにゆっくりと口を開く。いや、正確にはマスクの下で話し始めたらしい。


「どうしましたか?」

ズコッ!?吹き出しとともに70歳半ばのオグラさんもずっこける。

それでもDr.フィールグッドはヒカルのリアクションを待つ。

「地元の郵便局の署長さんが退院して帰って来なさいって言うので帰りました、、、、。それより私、妊娠しているみたいなんですけど。」

切迫性もなく穏やかに自己主張を始めたヒカルにDr.は優しく語りかけた。

「まぁ怪我がなくって良かったですねぇ。何よりです。じゃあ少し休みましょうかね。」

てっきり保護室再開と思われていたため拍子抜けするも、Dr.の優しさに同時に感動する。

「先生ありがとうございます。ヒカルも特段悪気があったわけではなさそうなんで良かったです。」

ともすればこちらの都合に沿わないことが他人に起こると、当事者は怒る、不満を述べる、見なかったことにするという対応をとるのかも知れない。しかしそこで頭ごなしにこちらの正論をぶつけるだけでは当人の気持ちは把握できない。威嚇によって服従させようとしてもそれは反発を招くだけであって、問題の解決には至らない。それよりも今回ヒカルになぜこのような行動を取らせたのかを知る良い機会になったのであって、それをさり気なくチェックするあたり、さすがはDr.フィールグッドなのである。