「久しぶりね、マサル。研究の方は順調なの?」
3日ぶりに会うメアリーは相変わらず髪をカッチリ固めて巨体をゆすりながらステーションに入ってきた。
「あっ、お久しぶりです。お陰様で順調に進んでいます。昨日はカミヤマさんにもご理解頂けて、全面的に協力してもらえることになりました。本当嬉しいです。
テーマは仮ですけど、『セロトニン・オキシトシン分泌を促進させる関わりはうつ病患者にどのような影響を及ぼすか』にしました。まぁ簡単に言ってしまえば幸せホルモンに会いたいってとこっすかねぇ。」
「なんかの小説みたいだけど、まぁいいんじゃない? 先生の許可は取ったの?」
「今から行くとこです。」
その人は医局の本の隙間で静かに座っていた。一年中外すことのないマスクの下から物凄くか細いが、しかしダンディな声で囁かれたが聞き取れずにもう1度お願いしますと聞き直す。
「マサルさん、最近はどうですか?鍼やってますか?」
「先生、鍼はお得意様ばかりですね。今はヒーリングヘッドスパがメインです。そこで、今日は先生にお願いがあって参りました。今年度のうちの病棟の看護研究を幸せホルモンについてやりたいと思っているんですが、先生の患者さんを対象にしたいと考えているんです。」
今回の趣旨を先生に説明した。左手首には吸い込まれそうな爽やかな青色をしたラリマーが絡みついていた。
Dr.フィールグッドは静かに耳を傾けていたが、その内にアルカイックスマイルとなった。しばらく微笑を浮かべていたが、やはり聞き取れないほどの小さな声で、
「マサルさんのその技術を全員にやってもらいたいですねぇ。」
と、なんとか聞き返さずに聞き取れた。
「ありがとうございます。セロトニン・オキシトシンの分泌促進の評価は臨床心理士の先生に幸せ満足尺度で評価してもらいたいと考えています。」
Dr.フィールグッド、師長、主任、病棟の承認が揃った。