圧倒的な違和感を持ちながらもそれが何かを確信できずにカーデックスの情報収集を終え、
さて薬の準備でもやろうかな、と重い腰を上げた俺はそこで始めて違和感の正体に気づいた。
メアリーの荷物が極端に少ないのだ。
いつも夜勤に出社してくるメアリーは、両手に持ちきれないほどの食料を抱えて、鼻歌混じりでナースステーションに入ってくるのだが、今日は違った。

「マサルごめん。今日はパン買ってこれなかった。暑くて駅で降りれなかったわ、、、。」

今日は新人Nsと新人ヘルパーの夜勤デビューだから、まさかの5人勤務だった。仕事は3分の1から5分の1に減るわけで、それは大変ありがたいのだが、それに伴い差し入れも5分の1に減ったと言う訳だ。


「メアリー、この間はありがとうございました。今日は何を教えてくれるんですか?」


「2番目は売り方よ。あんたお客さんはついてるの?」

「お得意様は2人くらいで、、、以前のってた時は1週間で5件くらい往診してましたけど、、、。」

今現在お客様がいないのだとどうしても言えないこちらを見透かしたかのようにメアリーはぶっ込んでくる。

「ハイハイ0ね。あんたお客が来ないなら来ないで受け入れなさいよ。なにカッコつけてるの!?カッコつけてればお客が増えるとでも思ってんの?全く自分は反町ですとでも言いたいのかね。」

「そんなつもりは、、、。」

「いい?勘違いしてるようだけど、あんたが売るのはズバリ信頼よ。」

「信頼、、、、ですか、、、。ピンと来ないですね。」

「じれったいわね。あんた腕に自信あるし、肩書もあるし、病院での地位もあるわけでしょ。でもでも技術を売ろうとしたら見向きもされない。やってもらった人からの評判も高いのに広まらない。それはなぜか。信頼がないからです。違いますか?今まではクリニックの看板=信頼の元でやってこられただけであって、その看板がなくなれば当然信頼もなくなってしまったと言う訳よ。じゃあ信頼ってなに?」

「必要とされることですかねぇ、、、信用ですかねぇ。」

「実績よ。」

「実績がなにもない。もしくは実績が見えない、ってとこに誰が治療を頼むの?口コミ?それこそ実績のある人に対してのお客の評価が実績でしよ?だから実績を積みなさい。でも長期間必要なのが実績ってわけでもないのよ。みんなが納得するような効果をプレゼン出来ればいいのよ。そんな場があんたにある?」

「そうですね、、、」

しばらく考えてある結論に至った。

「看護研究としてやってみたいです。先生や経営陣も巻き込んで、自分のドライヘッドスパの技術が病院や患者さんにどんな効果をもたらすのかやらせてもらいたいです。」

俺はニカワダさんに言われた言葉を思い出しながらメアリーにそう伝えた。
看護大学の保健師兼カウンセラーをやっているニカワダさんには以前から勉強に実習に疲れた学生のサポートをやらせてもらえないだろうかとアプローチをかけていた。でも反応は良いのにはぐらかされた様な感じで何日も経っていたので思い切って聞いてみた。

「マサルさん。あなたのやろうとしていることは素晴らしいし応援したいとも思っている。実際抑うつ状態の学生は何人も居て紹介したいとも思った。でもね、私の大切な学生をなんの実績もない、何をやっているのか見えてこない様なとこに預けられる?ちょっと怖いと思う。そこには信頼がないんだもん。」

俺は信頼を構築するための方法として看護研究を選択し、それが実績となって患者さんに還元されるようなシステムを作りたいと考え、師長に説明させてもらうことにした。
頼む。OKしてくれ!