(札幌ライラック祭り始まる)


先日 NHK BSで 川端康成 「伊豆の踊り子」を見た。

もう何十年ぶりかなあ。

主演は 吉永小百合さん、相手役の一高生は 高橋英樹さん、お二人とも それぞれ現在は79歳、80歳になられる。


おふたりは 今も若い。

脇を固める俳優陣は、浪花千栄子、大坂志郎、宇野重吉、南田洋子など、今は亡き 錚々たるメンバーである。


若い頃 見た時は、許されぬ愛の純粋さに涙したものだが、歳をとった今となっては、全く別な角度からいろんなものがみえてくる。


一高生の高橋英樹、後の宇野重吉教授から見える昭和初期の出会いの物語は、いま現在の時間の経過とほぼ同じなのである。

つまり、昭和初期からおよそ40年たつ昭和四十年頃、さらに令和五年は、さらに50年ほど経つ。

撮影当時 二十歳前後の 吉永小百合さんや高橋英樹さんが 八十歳くらいにもなるはずである。


下田温泉で 十朱幸代が、若くして労咳で死に、面倒をみる南田洋子が カラダを売って金を稼ぐ様は、実は 自分が 学校から実家に帰った頃、50年前の 自分が二十代の頃の 川湯温泉の状況と そう変わるものではなかった。

もちろん十勝川温泉など 他の温泉地も そう変わりはしない。


ただ、

川湯は 釧路地方、北見、網走、根室などの漁師、農民が、冬の暇な時期、湯治をしながら、一年の労働の垢を落とし長く滞在する場所であり、であれば そこに飲み屋が集まり、接待をする女達が集まり、仕切るヤクザどもが集まる、という他と変わらぬ構図の 歓楽の街だったのである。


ボクの知る限り 数百人単位の若い女たちは、飲み屋や置き屋に所属しながら、カラダをはってカネを稼ぎ、老いる前に、ほとんどが それぞれ男と結婚して街を去って行った。


相手の男は、嫁を亡くした漁師だったり、相手の なかなかみつからない農民だったり、多くは幸せな結婚をしていった、と思う。

女たちも二度目、三度目の結婚、というのもあったであろう。


そういう意味では 訳ありの男たちの 嫁探し、そして、訳ありの女たちの 婿さがしの場でもあったのである。


「伊豆の踊り子」にでてくる 十朱幸代や南田洋子などの場合の悲惨な状況は、無いわけではないが、少し極端な状況に思えるのである。


なかにし礼の小説に 長崎ぶらぶら節 というのがあった。

記憶では、九州のどこかの寒村から、長崎丸山へ三人の娘が売られた。

上二人は器量良しで、すぐ結婚して 丸山を出て行った。

下の娘だけが売れ残り、お師匠さんとして 丸山で生涯を全うした。

小説は、長崎ぶらぶら節を 研究している学者を、彼女が協力する、という実話である。

映画では、器量の悪い芸者を 吉永小百合が、そんな馬鹿な! 演じ、相手役は 渡哲也が演じた。


さて、その川湯温泉は 現在 壊滅間近状態である。

ボクの知る限り、道内他の観光地も 状況は そう変わらない。

釧路の栄町でさえも 昔の面影はない。


かっての若者は、いい意味でも悪い意味でも、性のエネルギーに溢れていたように思えるが、今はどうなのだろう。


などと、歳をとってからみる「伊豆の踊り子」は、若い頃とは違う 社会性やら人間性が見えてくるのである。