人は成功すると、それを自分の実力だと思いやすい。
売れたのは自分の営業力。
うまくいったのは自分の経営判断。
成果が出たのは努力の結果。
もちろん、それらも理由の一つだろう。
しかし、時として人はもっと大きな要因を見落としてしまう。
それが「構造」である。
以前、こんな話を聞いた。
ある駅のキヲスクが、全国でトップクラスの売上を誇っていた。
その店で働くおばさんは誇らしげに言っていた。
「うちの店は全国売上No.1なんだよ」
まるで自分の商売の腕がすごいから売れているような言い方だった。
しかし、それを聞いた人がこう言った。
「一番偉いのはあなたじゃない。キヲスクという仕組みを作った人と、その駅にキヲスクを置くことを決めた人だ」
なるほど。
もしそのおばさんが同じ商品を持って、駅前の裏通りで売っていたらどうだろう。
おそらく同じ売上にはならない。
つまり売れている理由の大半は人ではなく構造にあるということだ。
これを我々は「キヲスクのおばちゃん理論」別名「成功の錯覚」と呼んでいる。
この話が面白いのは、多くの人がこの錯覚を持っているからだ。
ビジネスでも、人生でもそうだが結果が出ると、人はその理由を自分の能力に帰属させる。
これは心理学では「自己奉仕バイアス」と呼ばれている。
簡単に言えば、成功 → 自分のおかげ、失敗 → 環境のせい、という認識である。
しかし実際には、市場の成長、時代の追い風、立地、会社のブランド、ビジネスモデルこうした構造的要因が大きく影響していることは珍しくない。
つまり成功の裏側には構造の力が存在しているのである。
ここで、経営の話になる。
商売というと、つい「売る力」に目が向きがちだ。
営業力、接客力、プレゼン能力
もちろんそれらは大切だ。
しかし、経営者の仕事はそこではない。
経営とは売れる構造を作ることである。
例えば、駅のキヲスク、高速道路のサービスエリア、Amazon、App Store、YouTube
これらはすべて「売れる場所」を作ったビジネスである。
そこで商品を売る人は必要だが、価値の源泉はその場所を作った人にある。
成功の錯覚は、時として危険な結果を生む。
なぜなら構造が変わったときに対応できなくなるからだ。
自分の能力で成功したと思っている人は、環境が変わると突然うまくいかなくなる。
しかし、その原因に気づけない。
「なぜ売れなくなったのか」
本当の理由は構造が変わったからなのだが、それを理解できないのである。
今、世の中は大きく変わり始めている。
AIの登場によって仕事の構造そのものが変わっている。
今まで価値があった仕事が突然価値を失うこともある。
逆に、今まで存在しなかった仕事が新しい価値を生むこともある。
こういう時代に必要なのは売る能力ではない、構造を見る能力である。
キヲスクのおばちゃんになるのか?それともキヲスクを作る側になるのか?
この違いは能力の違いではない。
多くの場合は視点の違いである。
プレイヤーとして世界を見るのか?
それとも構造を作る側として世界を見るのか?
その視点の違いがビジネスの未来を決めるのかもしれない。