最近、経営者同士で人材採用の話をしていて感じることがある。
「採用したい」ではなく「本当に採用して大丈夫だろうか?」という声が増えていることだ。
もちろん人手不足は続いている。
しかし、中小企業の多くは以前よりも慎重に採用を考えるようになっている気がする。
我々は今、「雇う時代」から「雇わない時代」への転換点に立っているのかもしれない。
優秀な若者は、新卒を含めてたくさんいる。
しかし経営者の立場で見た時に、採用に対する考え方が以前とは明らかに変わっている。
理由はいくつかある。
その一つが、採用される側の価値観の変化だ。
「教えてもらって当たり前」「失敗したくない」「楽して稼ぎたい」
もちろん全員ではないが、そんな価値観を持つ若者が増えていると感じる。
企業側から見ると、入社後にどこまで成長するのか見極めることが以前より難しくなっている。
育成には時間もお金もかかる。
ところが、その投資が回収できる保証はどこにもない。
採用そのものが大きな経営判断になっているのである。
もう一つが、存在感を増してきているAIの存在だ。
これまで新人が担ってきた、資料作成・情報収集・文章作成・データ整理、こうした業務の多くがAIによって代替可能になりつつある。
AIは、速い、正確、文句も言わない、24時間働く、コストも安い。
企業から見れば「新人を育てるよりAIを使った方が効率的ではないか」という発想が出てきても不思議ではない。
これは決して極端な話ではない。
実際に多くの企業でAI導入が進み、従来なら若手社員が担当していた業務が消え始めている。
さらにもう一つ挙げると、「働き方改革」による人材活用の制約である。
残業規制、配置転換への制限、多様な働き方への対応。
もちろん労働者保護は大切である。
しかし企業側からすると「育てながら適材適所を探す」という従来型の人材育成が難しくなっている。
その結果、必要なスキルを持つ人と契約する、必要な仕事を外注する、プロジェクト単位で協業する。
そんな形態が増えていく可能性が高い。
つまり企業は「人を雇う」のではなく「能力を調達する」方向へ進み始めているのである。
これらの理由から「採用抑制」に向かう企業は、今後増えていくことが予測される。
そのような状況下で、新しい仕事も生まれている。
「AI活用コーディネーター」「AI導入コンサルタント」のような仕事が増加すると考えている。
AIそのものは誰でも使える。
とはいえ、どの業務をAIに任せるのか?どのようなプロンプトを作るのか?どう業務フローに組み込むのか?どう成果につなげるのか?といった問いには業界知識や現場理解が必要になる。
AIは万能ではない、だからこそAIを使いこなす人材の価値が高まる。
人間とAIとの共存、協業がこれからは当たり前の時代になる。
AIは答えを出す。
しかし、その答えをどう解釈するのか?どのような意思決定をするのか?誰を巻き込むのか?最終的に実行するのか?これを判断するのは人間の役割である。
つまり「AIは考えるための材料を提供する存在」「人間はその材料から価値を創造する存在」そんな役割分担になっていくのではないだろうか。
このような時代には管理職の仕事も変わる。
従来のような、業務管理・進捗管理・作業管理のような業務はAIが支援できるようになる。
するとマネジャーに求められるのは「人の心を動かす力」になっていく。
なぜ働くのか?働いて何を目指すのか?自らはどう成長するのか?
つまり人材管理ではなく「モチベーションマネジメント」が中心になっていくのである。
そしてビジネスマン一人一人に必要となる能力は何だろうか?
一つは「AIと上手に協業する力」、そしてもう一つは「自分自身を理解し成長させる力」である。
AIは知識を持っている。
しかし、情熱は持たない、夢も持たない、責任も持たない。
だからこそ人間は、何をやりたいのか?何に価値を感じるのか?どんな未来を作りたいのか?を問われる時代になる。
効率だけを考えれば、AIができる仕事は今後さらに増えるだろう。
では人間は不要になるのか。
そうは思わない。
なぜなら経済活動の本質は人間だからだ。
商品を買うのも人間、推し活するのも人間、何かに熱狂するのも人間、仲間になるのも人間。
企業が成長する時に生まれる高揚感、チームが一体になる空気感、人と人との信頼関係、こうしたものはAIには作れない。
AIは効率を高める、しかし価値を感じるのは人間である。
だからこそ、これからの社会では「AIに何を任せるか」よりも「人間は何のために存在するのか」という問いがますます重要になるのではないだろうか。
我々は今、その入口に立っているのかもしれない。