フェンダー内の配線や締め付けを確認し、
ホイールベアリングの状態や足りない部品がないか等チェックしていきます
今回の車両は問題ありませんでしたが、これらの作業に加えてリアウインカーの締め付けや角度調整など車体の状態によって作業が増えることがあります
次はブレーキ周りの作業に移ります!
ブレーキパットの面取りをして(ブレーキの鳴き防止に角を削ります)
キャリパーピストンや、キャリパーの種類によりスライドピン等の潤滑をしていきます。
新車なのに潤滑がいるのと思われるかもしれませんね。おそらく日本に入荷してきた状態で、再度の潤滑などしなくても大きな問題は無いと思います。
しかし、以前も書きましたがハーレーはアメリカより船に乗り、長旅をしてきていますので改めて潤滑や可動部の調整をしたほうが操作感は良いと思うのですなのでしっかりと作業をしていきますよ!
ブレーキ周りと各部点検が終われば組み立てていきます。
コレはリアアクスル、日本語では車軸と言いますね。ホイールをスイングアームに固定し、支える部品になりますがこの部品の表面にグリスを塗ってから組み付けます
この部品は可動部ではありませんが潤滑をしておいたほうがいいところになります。(棒のグレー部分がグリスを塗っている箇所です)
なぜなら、アクスルはグリスを塗っておかないと錆びてしまうのです
錆びるとダメなの?動かないところなら錆びても走行には関係ないんじゃない?と感じられるかもしれません。
確かに、アクスル自体は可動部ではありませんので走行に支障はないです。丈夫な材質でできているので多少腐食したところで問題になるようなこともありません。
しかし、お客様に納車されて何年後かにタイヤ交換や車検整備の時に問題になることがあります。
上に書きましたように、アクスル自体が錆びても問題はありません。しかしアクスルはホイールの可動部であるベアリングと繋がっています。
ベアリングの構造についてはまた別の機会にいたしますが、アクスルが錆びるとベアリングのインナーレースという部分と固着してしまいアクスルが抜けなくなるのです
固着してしまったアクスルは人の力では抜けませんのでハンマーで衝撃を加えたり、熱をかけて金属を膨張させたりして外すことになります。
ベアリングは回転するための部品ですので、衝撃や熱を加えることは考えられていないのでこういった外し方をした場合当然使えなくなります
本来ならまだ使用できたかもしれない部品が腐食のため使えなくなっては、お客様にとって不必要な負担となってしまいます。
そのため、新車でもアクスルを外してグリスアップしているのです
長くなってしまいましたので、次にいきましょう。
ホイールを組み付けたらベルト調整ですね。
PDIその1で書きましたが、工場出荷状態だとドライブベルトがキツめになっています。
上の画像が調整前になります。(測定開始位置の写真が無いので分かりづらいですね)測定用の工具がベルトガードの目盛り3本目くらいです。目盛りの線と線の間が1.6mmですので4.8mmのベルトのたわみになります。
ベルトの張りの規定値は6.4~7.9mm。規定値よりキツめですが、走行距離1600km以下のベルトは規定値よりきつめに調整するようマニュアルに指示がありますので新車としては仕様の範囲内ですね。
さてこれを調整して 下の画像、目盛りの6本目(9.6mm程)に調整しました。
規定値より緩いけど・・・
そうなんです、ちょっと緩めに調整しちゃうんです
なんで緩めちゃうの?というところなのですが、まずはベルトが規定値より緩いとなにが悪いかを説明します。
ドライブベルトは歯車のようにベルトとスプロケット(スポーツスターの場合は右側にあります)が噛み合って力を伝えています。
ベルトが緩いと、ベルトとスプロケットの噛み合っている山の部分がうまく噛み合わず山を飛び越えてしまうことがあります。
こうなると駆動力の断続や、最悪の場合ベルトが空転して走行不能になってしまいます。そのため緩めすぎてはだめなのですね。
また先に書きましたように、新品のベルトはきつめに調整するよう指示があるわけですが、これはワイヤー類と同じように初期伸びがあるためです。ある程度走行するとベルトの張りが変わってしまうためきつめに設定してあるのです。
それをふまえて緩めにした理由にいきたいと思います
ドライブベルトはホイールに繋がって回転させているわけですが、その駆動力を生み出すトランスミッション側にももちろんベルトが繋がっているスプロケットがあります。
このスプロケットはトランスミッションの先端(長い棒の先端)についています。トランスミッションの詳細は別の機会にいたしますが、トランスミッションなので当然オイルが入っています。そのためスプロケットが取り付けられている位置にはオイルシールがあります。
問題なのはこのオイルシールです
ベルトがきついとこのオイルシールを痛める可能性があるのです。
トランスミッション側のスプロケットはトランスミッションのメインシャフト、長い棒の先端についています。ここにドライブベルトがかかっているわけですが、この棒は駆動力を伝えるため常時大きな力がかかります。長い棒の先端に大きな力がかかるということはテコの原理でさらに大きな力が倍率ドン!さらに倍!!でかかることになります・・・ ちょっと古いですか、そうですか
とにかくトランスミッションシャフトは常に引っ張られているということです。そして引っ張られているということはオイルシールの片側に押し付けられているということになります。オイルシールはゴムの部品なので時間が経つと復元力が弱くなり伸びてしまいます。パンツのゴムと一緒です
オイルシールが伸びてしまうとオイルシールとしての役割が果たせなくなります。そうなればオイル漏れの原因となります。
結論まで長くなってしまいましたが、ドライブベルトがきついとオイルシールを痛めてしまうのです。そのため少しだけ緩めに調整しているのですねあとは、ベルトがきついとトランスミッションシャフトが引っ張られてニュートラルギアなどが入りにくくなるという操作感の問題もあるのですが
ベルトの調整についてはいろいろな考え方があるとは思います。
「ラチェッティングがおきればドライブベルトの寿命が短くなる。だからメーカーの規定値どおりキツめがいい」という方もいれば、
「ハーレーは昔はもっとベルトが緩かった。だからこんなきついのはダメだ」という方もいると思います。
奈良店では規定値より少し緩めにしているわけですがこれは、僕自身も含めたハーレーテクニシャン、その先輩や更にその先輩方などの経験から長い時間をかけて集められた情報を基に、ラチェッティング等の問題が起きない範囲で操作感の良さや部品の耐久性の確保ができるように調整しています。規定値は大事なのですが絶対というわけでもありません。そう考えると今のモデルはかなりキツい調整に感じます
実際、1990年頃のスポーツスターのベルトの規定値はおおよそ14~17㎜なのでかなり変わりましたね。まあ部品が違うので一括りにはできませんが。
各部品の材質や形状が進歩してキツめでも問題無くなったのでしょうが、構造自体は大きくは変わっていないのでもうちょっと工場組み立て時に緩めてもいいと個人的には思うのです
と、話しているうちにまた長くなったのでここらでリア周りは完成です
では車体右側です。
エアクリーナーを外して奥の配線を確認したり、緩みがないかチェックです。
おや?オイルタンク前の配線が配線止め(画像真ん中あたりの爪になっている所)から外れていますね。
問題はないでしょうが設定された位置にキチンと戻します
車体右側の点検が完了しましたので、フロント周りにかかります。
フロントもリアと同じようにブレーキの潤滑や面取り、締め付け等していきます。
もちろんタイヤにはエアグーをいれておきます。
すごく良くなる!ので。(感じ方には個人差があります)
ついでに車体配線も整えました。
車体右側からフロント、配線とさらっといってしまいましたがこれでPDI作業は完了。
試乗チェックをして完成となります
ここまでいろいろな作業をしてきました。ネジが緩んでいたり、いろんな調整が必要だったりとなかなかに大変なのです
しかしこれはなにも、ハーレーダビッドソンがいい加減な製品を作っているということではありません。
各販売店はハーレーの製造過程の最終工程である。というのがハーレーの考え方です。
創立当初のハーレーは木箱に詰められて出荷されていましたが、その木箱のなかは部品の状態でバラバラでした(写真を見られたことがあるかもしれませんね)そのため届いた販売店が最終組み立てをしお客様に届けていたのです。
現在、ミルウォーキーの工場で組み立てられたハーレーはほぼ組みあがった状態で販売店にやってきます。そこからお客様に一番近い製造ラインとして販売店でPDIの作業をし、お客様のもとに納車されます。
ハーレーダビッドソンという製品を完成させるためにPDIはとても重要な作業なのですね。
そのためお時間を頂くことがございますが、しっかりとした作業を心がけていますのでご容赦いただければと思います
リア周りのはずが完成まで書いてしまいましたのでかなり長くなってしまいました
PDI解説は今回で終わりですが、こんなことをして欲しい、ここはどうなってる?等質問・ご要望ありましたら奈良店にお気軽に声をかけてくださ~い
では、今回はここまで! 福本でしたー。それでは