△ △Host
・ ・Dog
● Lucky003


明美さんはためらいもなくハラリと服を脱ぎ捨てた。

ほ、ほんとに、そ、そ、そんなの困るワン★ぼくはこれまでに感じたことのないドキドキで心臓が爆発しそう。おまたも何だか変な感じになってきて、思わず目をつぶってしまった。

「ラッキーちゃん、なに照れてるの。あなた、お仕事中なんですからね。ほら、ちゃんと目を開けてこれを見て」

そうだ、ぼくはホストドッグなんだ。お客様の御要望にお答えするのがぼくの使命。おそるおそる目を開けてみてみると、、、

なんともビックリ。明美さんはタマピコリンなお姉系ワンピから赤い斑点模様の白いシャツに着替えていた。そんな模様は犬でも見たことないワン?ダルメシアンは黒い斑点だし。

「びっくりした?これは『ここ押せワン!ワン!シャツ』っていって、ネット通販で見つけたの。『かわいいペットと新しいスキンシップの形。心も体もリフレッシュ!』できる発明品なんだって。赤い点々は『ツボ』っていってね、中国四千年の歴史がぎゅっと凝縮されたものなの。ここを押すと、血行とか気の流れがよくなって、とってもキモチいいの」

あれれ。ぼくのドキドキはどうなるの。しっぽダラリンのがっかりだ★ツボ?中国四千年?見たことも食べたこともない。ちっともわからんチンだ。

「いくら仕事だって見ず知らずの男の人たちと毎晩話をするととっても疲れちゃうの。『昼間は専門学校に通ってて将来はスタイリストになるのが私の夢なんです』なんて適当にウソついて、バカなおじさんたちに貢がせて楽しくやってる子もいるけどね。そんな女の子たちとうまくやるのも大変。同伴ノルマだってけっこうキツイんだ」

こんなに綺麗でセクシーな明美さんも影ではいろいろ苦労してるんだな。ぼくも同じような仕事だから気持ちはわかるよ。

「そろそろラッキーちゃんにいいことしてもらっちゃおうかな。ちょっと爪を見せてみて」

爪切りはホストドッグの身だしなみのひとつ。間違ってお客さまにケガをさせちゃいけないから。今日もハッチャンに出勤前チェックをされたばかりだから、バッチリだ。だけど、どうするのかな。

「あら、きれいに切ってあるわね。肉球もコリコリしててなかなかいいわよ。ラッキーちゃん合格」

明美さんはニッコリと微笑むと、ソファーの上にうつぶせになった。

「それじゃあラッキーちゃんにツボを押してもらってリラックスさせてもらうわよ。まずは、『肩井(けんせい)』。両肩のまん中にある赤い点よ。このツボは、頭痛や肩こりにとっても効果があるの。ソコをぎゅっと押してみて」

ツボ押しだなんて。急にそんなことを頼まれても、ぼくはツボなんて一度も押したことないよ。間違って変なところを押しちゃったら病気になるなんてことはないのかな。うまくできるわけないよ。どうしよう、足が震えてきちゃった。

そうだ、蘭丸を呼んで手伝ってもらおうか。ブルルッ★だめだめ。昨日じゃれてた時に、あまがみのつもりが本気で噛んじゃってケンカになったばっかりだ。

「ラッキーちゃん、さっきからそこで何を小声でヮォ、ヮォ言ってるの。ぐずぐずしてないで早く背中に乗って。できないならいつもの蘭丸ちゃんに代わってもらうわよ」

ビビってる場合じゃないぞ。指名をもらったのはぼくだ。自分の仕事はまず自分でやってみなくちゃ。目の前の小さなチャレンジがナンバーワン・ホストドックへの一歩なんだ。よーし、シッポを奮い立たせてがんばるワン☆

ぼくは震えの止まらない前足を持ち上げてそーっと明美さんの腰の辺りに乗ってみた。

「そう、その調子。上出来よ。もうちょっと前に進んで」

よし、ここが肩井か。ぼくも男だ。思いきって押してみるぞ。ぼちっとワン!


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● Lucky to be continued...
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● Lucky002



ハッチャンはぼくにリードをつけると、明未さんの待つ部屋へと連れていった。明美さんは、ルームNo.4「フェアリーテイル」で待っていた。わんぱくランドで一番乙女チックな部屋。

コンッコンッ。

ハッチャンがドアをノックする。

「どうぞ」

中に入るとカラフルに彩られた壁に舞う妖精たちに囲まれるように、真っ白なソファーにちょこんと明美さんが座っていた。

「こいつが新人のラッキーや。どんくさいとこあるけど、根は素直やから。かわいいがったってや」

ハッチャンはリードを外すと部屋を出ていった。

ぼくらホストドッグはお客様に付くまでに半年ほどの訓練期間がある。ハッチャンにホストドッグとして必要な様々なしつけをされるんだ。おすわりのように犬として基本的なものから、おやつをおねだりするテクニック(これがお店の売上になるんだワン)までみっちり仕込まれる。

「あなたがラッキーちゃん。柴犬っていうからおっきな子かと思ってたけど、小さくてかわいらしいのね。豆柴なのかな。こっちにおいでよ」

お客様との出会いは第一印象がとっても大切。初指名の時にはぼくの得意技「テーブルの下からはじめましてだワン」を披露している。

よーし、ばっちりとキメるぞ。短い足ですくっと立ち上がると、ソファーの出前にあるテーブルの下めがけて勢い良く駆け込んだ。



ゴツンッ★

△ △
× ×


キャイーン★テーブルの角に頭を思い切りぶつけちゃった。二回に一回はやっちゃうんだよな、このごっつんこ。まだまだダメピロリンなぼく。

「いたそーう。大丈夫?ラッキーちゃん」

クラクラしながらもなんとかテーブルの下をくぐり抜けて明美さんの足元にたどり着いた。前足を体の前で90度の扇形に開いておすわりする。舌をちょこっと出して明美さんを見上げた。ホストドッグのおすわりの基本型。

しっぽは気持ちパタパタさせて「好きだよー」ってさりげなくアピールする。しっぽの先っぽで母性本能をくすぐるイメージ。

「ハッチャンがどんくさいって言ってたのは本当ね。涙目になってるよ、痛かったんだね。よしよし」

そう言うと明美さんはぼくの頭をなでなでしてくれた。お客様からのスキンシップは心を開いてくれた証拠。体をはったかいがあった。明美さんのハートに一歩前進だワン。

「よいしょっ」

明美さんはぼくをひざに乗っけてくれた。こりゃまたワンワン拍子に前進だ。

「わたしラッキーちゃんに、して欲しいことがあるんだ」

なんなりとどうぞ。おもてなしがぼくのお仕事だからね。OKの合図に小さく「ワン」と返事をした。

「いいお返事だね。実はね、、、」

明美さんはぼくをひざの上からソファーに移すと、着ている服を脱ぎ始めた。

な、なんてことだワン★いきなりそんな。ぼくまだまだ子犬だから、そういうの良く分からないよ。ククゥーン、どうしよう。明美さんに「クセがある」ってこのことだったの!?


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● Lucky001

 あーあ、お客さん来ないかワン。ショーウィンドーでぼくの部屋を24時間ずっと公開してるのに。「お試しだっこ無料キャンペーン」のポスターだって貼ってある。今日は誰もぼくに見向きもしてくれないワン★ライブカメラでネット配信でもはじめようかな。

 ガタガタ、ガチャリ。

「おい、ラッキー。飯の時間や。ダイエットメニューのササミどんぶりにしといたったで。デブ犬になったらこの商売もできひんようになるからな。お前も一流のホストドッグを目指すんやったら、女の子がだっこできる体重をキープするんやで」

 黒のタキシードに身を包み、ツルピッカリの頭に蝶ネクタイのこのおっちゃん。通称ハッチャンは、ぼくのいるホストドッグクラブ「ワンぱくランド」のオーナーだ。ハッチャンはもともと大阪で犬専門のペットショップを経営していたそうだ。

 ある日、「犬が女をもてなすホストクラブがあってもええんやないか」と夢に出て来た神様からお告げがあったそうだ。ホストクラブを始めるなら歌舞伎町しかないやろってことで、店にいた犬を引き連れて五年ほど前に上京してこの珍商売をはじめたらしい。

 おっと、自己紹介が遅れました。ぼくは、ラッキー。オスの柴犬。生まれてすぐにぼくのママの飼い主に捨てられちゃった。新宿の大ガード下で段ボールに入れられて泣いていたぼくをハッチャンが拾ってくれたんだ。この店に入ってまだ1年。名前は12月7日に拾われたからラッキー7の「ラッキー」だってハッチャンがつけてくれた。

 チャームポイントはふさふさで全身まっ白のこの毛並。なでなでするととってもやわらかくて癒し効果バツグン。都会の生活に疲れてる姉さんに超お薦めなんだ。いつかこの歌舞伎町でナンバーワン・ホストドッグになることが目標。この街のタマピコリンな美女をメロメロにさせてやるんだワン☆

ウィーン。ガッシャン。

ピロリロリロリロリロ♪
ピロリロリロリロ♪

 あ!ドアのベルが鳴ってる。静かにしろってハッチャンに何度も怒られてるのに、ついつい反応しちゃうんだよなー★悲しい犬の習性だ。ハッチャン、お客さんだよ。

ワンワンワン!

「こらっ、ラッキー。静かにせんかい。えらいすんまへんな、しつけが悪うて。
お、これはこれは明美ちゃん、まいどおおきに。相変わらずべっぴんさんやなー。いつもより早い御来店で。今日はどんな子をお探しでっか」

 うわっ!ドッキーン☆このお姉さん超セクシー。今どき流行りのお姉系ワンピからはみ出した真っ白な太ももがまぶしいよ。ああ、ホントにもうタマピコリンだワン☆

「ハッチャン、わたし最近ちょっと落ち込んでるの。お店の女の子たちとあんまりうまくいってなくて」

「ナンバーワン・キャバ嬢ともなると、ねたむ奴もおったりして色々とあるんやろな。『ゴールデン・クィーン』は女の子の入れ代わりも激しいみたいやし。いつものチワワ、蘭丸にしとくかい」

「あの子はかわいくて芸もできるから、とっても場を盛り上げてくれるんだけど、短気なところがあるのよね。今日はとっても癒されたい気分なの」

「それやったら、ぴったりのがおるで」

 お、ハッチャンがこっちに向かってきたぞ。

 ガチャリ。

「おい、ラッキー、仕事やで。お前の純和風な顔だちで明美ちゃんをしっかりホストしてこい」

 ご指名いただきましたワン。ハッチャン、ぼくにまかしといて。といっても、明美さんはクセのあるお客さんだって蘭丸が話してたな。大丈夫かな。。。