狂言回し | きつねの部屋ブログ版

狂言回し

 大河小説『光る君へ』で登場する「散楽(さんがく)」。主人公の”まひる”こと紫式部と藤原道長とを二人出会わせるシーンで登場したのが散楽。いわば庶民芸能の走りのようなもので、面白おかしく世の中を揶揄し庶民に溜飲を下げさせる。

 

 散楽とは元は宮中の雅楽の中の一つのジャンルであったそうだが宮中では廃止され、その流れが外部へとでて当代以降庶民の芸能として楽しませていて、中世の猿楽から能、そして現在の歌舞伎へと枝分かれする。

 

 その散楽者の一員に今熊克也扮する直秀がいる。彼、実はアナーキストで実は野盗。

 

 つまりはわたしら視聴者の代わりの人物として二人の動向の監視役、つまり本来なら身分が異なる二人が親しくなるのを見守る役として登場している。

 

 また当時の庶民の暮らしを視聴者に紹介する役目も負い、庶民と貴族たちとの生活の格差を笑いに変え、庶民にも殿上人達の動きを知らせる役割を演じる。

 

 このような役を狂言回しという。あの有名な小説司馬遼太郎作の『竜馬がいく』の中に剣の修行のために土佐から江戸へと一人向かう青年坂本竜馬。その道中でであった本業は盗賊である寝待ちノ藤兵衛が竜馬の気っ風のよさに惚れ、物語の前半に彼の手下(竜馬はそうはおもっていないが)として情報収集などをしてくれる。

 

 こうして実際歴史上にはいなかったが、小説あるいは芝居の中にしか登場しないオリジナル人物たちを狂言回しという。

 

 彼らがいることで本来出会うことのない人物たちを出会わせる、そうした役回りをし、物語を円滑に、かつ膨らませる役として作者たちが登場させるのである。

 

 『光る君へ』は源氏物語をベースにしていて、実際には紫式部と藤原道長とは彼の推挙で娘の女房として宮中に送られたわけだから面識はあるはず。

 

 とはいっても互いに恋愛感情があったかというと、それはまずないと思われる。ということで二人の仲を濃いものにするためにもこうした登場人物が必要だと脚本の大石静氏は考えたのであろう。

 

 なんせ藤原姓が大勢でてくるので誰が誰やらわからないと視聴者に思われているようなので、道長と紫式部との仲を強調するためにも狂言回しは必要な役なのである。