戦争は終わらない | きつねの部屋ブログ版

戦争は終わらない

 昨日も再放送があったようだがNHKのドキュメンタリー番組『半藤一利「戦争」を解く』を録画したものを視た。

 

 ウクライナでの戦争は今だ終わる兆しはない。南部と東部はウクライナ軍が奪還したといってもその領土の大半はロシアが守り、またウクライナ全土のインフラを無人機、ミサイルなどでの攻撃を続け市民生活を脅かしている。

 

 俗にいう「大東亜戦争」「太平洋戦争」の終戦決定にはどのような過程があったのか、といった題材で書かれたドキュメント小説が半藤氏の「日本のいちばん長い一日」だ。

 

 終戦後半藤氏が文藝春秋の社員になり、経済成長只中に当時の関係者たちに取材した内容を小説風にアレンジ、2度映画化された。

 

 その取材を通し、日本軍が政治に介入し、特に「日本不敗」の感化を受けた陸軍の青年将校たちは日本の国体(天皇制)を護るという目的で原爆を落とされ、もうアメリカに降伏するしかない、という政府の判断に対してクーデターを起こし、戦争継続を画した。その顛末を記したのが『日本のいちばん長い日』だ。

 

 そうした事実を天皇の終戦宣言のラジオ放送までの24時間の政府、軍、天皇の発言など時系列に並べ事実を小説形式で半藤氏は描いた。

 

 アメリカ軍の攻勢の事実を認めながらも敗戦=天皇制が無くなると感じた彼ら青年将校たちはそのためには政治中枢を握り、「大和魂」で徹底抗戦を継続すると本気で思い、行動した。

 

 過去の日本の歴史から天皇を握った勢力が日本の政(まつりごと)を統べるとあり事実明治国家もそれでできた。昭和の御代にも彼らはそれを狙ったのだ。

 

 彼らも当然反転攻勢などできないと知っていて、それならまだ国民そのものが一致団結し全員が死んでも意思を貫き心中、その方が日本らしいと本気で考えていた。

 

 冷静に考えれば非合理な話しだ。だが、日本は日清、日露戦争以来そうした考え方が特に陸軍では主流で、海軍など世界を知っているリベラルな考え方はできなかった。

 

 今から考えるとこれは「狂気」だ。しかし彼らは本気で天皇を護る近衛兵を動かし天皇を拉致監禁し、全軍と国民に一億玉砕を命じようとした。その為にそれに反対した近衛兵団を指揮する司令官を近衛指令室で殺害までした。

 

 「狂気」を正義といいかえてもいい。しかし正義は双方にある、ということを忘れてはならない。自分だけが正しい、これが争いの素。だからこそ人間は話し合いで解決する。

 

 ことほど左様にその時の日本軍、とりわけ日本の勝利しかしらない世代の一部の陸軍の青年軍人たちは本気でそう考えていたのだ。

 

 このドキュメンタリー番組の中で、識者はいう。戦争は大きく2つあって、相手国とのコンセンサツが(合意)得られない戦争(第一次、第二次大戦)は長引き、戦争犠牲者は増えると。

 

 ではなぜコンセンサスが難しいのか。それは「不信感」にある。交渉を重ねても相手が決めたとおりにしない、と互いに思っているとコンセンサスは成立しない。

 

 貿易ならまだしも、戦争で互いに互いの国民を殺し合うという究極の行為をしているわけだから、不信になるのもむべなるかな。

 

 特に宗教、主義が違えばなかなか話し合いは合意にはたっしない。結果相手の国を、施設を、国民を殲滅するしか終戦は迎えられない、ということになる。

 

 国力がある限り闘う、そういう状況になってしまう。

 

 また軍というものは戦いがあるからこそ存在意義もある、そう感じている部分もあって、特に昭和の陸軍、特にニ・ニ六事件前後の青年将校たちには彼らの上司たちは日和見で本気で「日本」の行く末を考えていない、との信念が強かった。

 

 政治の主導権を彼らがとろとすると相手国からますます信用されず、話相手の対象とはならない。

 

 となれば戦争は長引き犠牲者は増える。結局天皇の裁断で終戦が決まり、現在を迎えることになった。

 

 今回のウクライナでの戦争も、一人プーチン大統領が西側諸国から精神的に追い詰められたと感じたから始まった。

 

 ソ連時代を知っている当時の情報畑の青年将校にとり、冷戦が終わりソ連が解体されたことは納得がいかなかった。

 

 特にウクライナには親ロシア系住民が東部と南部に多数おり、黒海へでる重要で戦略的な港街セベストポリがあるかってソ連が保有していたクリミア半島の奪回は、彼の悲願であって8年前ほぼ無血でそれに成功した。

 

 その余勢を駆っての今回のウクライナ侵略である。

 

 彼がこの考え方を改めない限りはこの戦争は長引くし、またウクライナの攻勢によりなおいっそう気持ちは頑なになっている。

 

 その上、この戦争を支持する軍関係者や側近もいてプーチンにとっても引くに引けない状況にもなっている。

 

 ウクライナもそうで、プーチンが信じられないでいる。双方がそうなら戦争はながびき、これからも犠牲者は多くでる。

 

 先にいったように、直接軍を敵地に送らずとも無人機、ミサイルで敵国のインフラを攻撃できる時代になって、更に終戦は遠のく。やはり終戦は相手国への不信があればコンセンサスは取れず長引く。

 

 必要なのは第三者の仲介だが、見回してもロシア、ウクライナ双方にとりそれに適する国はない。国連が本来そうした役目を負うのだが、拒否権をもつ国が当事国のロシアではそれができない。

 

 いつこの戦争が終わるのか、結局互いのダメージの差はあれど、どちらも犠牲者が大勢でるのが戦争だ、ということを半藤氏の『日本のいちばん長い日』のドキュメンタリー放送を視てそうおもう。

 

 人間の愚かさで戦争は起きるし、長引く。終戦の難しさだ。