京都人の密かな愉しみ blue 修行中 秋 | きつねの部屋ブログ版

京都人の密かな愉しみ blue 修行中 秋

 この京都を舞台にしたドラマ&ドキュメンタリーが始まって今年で6年になる。中身の濃い不定期放送ゆえに、毎回どのような京都が紹介されるのか楽しみに観ている。

 

 『久楽屋晴信編』が終了したあと、もうこのシリーズはおしまいか、と思われたときにはじまったのが前シリーズを引く継ぐ形で京都で働く若者たちの「修行」をテーマに描いた『blue編』だ。

 

 男女5人の若者たちがそれぞれその道の師匠に手ほどきをうけながら、一人前になる過程を京都の風景、風習をバックに語り合う、という手法を使いながら京都という特別古い都を描こうとした試みが新鮮で、これはこれであり、と支持していた。

 

 前シリーズとの関係性ものこしつつ、得意のドキュメンタリーパートとドラマパートをうまく織り込んで制作されている安心感があった。

 

 さて、今回久しぶりに若者たちに再会したわけだが、このシリーズが始まった時のサブタイトル「送る夏」で夏から秋に移り変わる京を背景に、若者たち5人が集うところからはじまった。

 

 そして再び秋がテーマとなっていてその名も「燃える秋」。第一回の「送る夏」では陶芸作家の父をもつ柚子が、父との葛藤を経て陶芸で賞をもらうまでを描いた物語がドラマの主たるストリーム。

 

 以来このシリーズでは若者の職に対する意気込みや悩み、苦闘、そしてまだまだ甘い人生観を追ってきた。

 

 が、前回放送の「祇園さんの来はる夏」あたりからは男女の恋愛に焦点を移しつつあって、今回はその話がメインとなった。

 

 軸となるのは2つの恋愛。師匠で義理の祖母であったタエを亡くした鋭二(毎熊克哉)とパン職人を目指す葉菜(趣里)の二人が結婚を決意する。

 

 もう1つが、柚子(吉岡里穂)とこのドラマの主人公格で庭師の修行中である幸太郎(林遣都)との関係性。

 

 この二人、高校時代に一度付き合い、彼女から別れをきりだされ、すでに恋人関係ではなくなっている。

 

 そんな柚子が前作「祇園さんの来はる夏」で家の陶芸職人頭である中年男性に思いをよせていて、彼に家族があることを知り、あきらめ、そんなこんなの今までの失恋事情を何回も幸太郎に話してきたという経緯がある。

 

 周囲の大人たちは幸太郎が柚子に恋愛相手にされず、いいように使われている「ハンディマン」(優しくて使い勝手のいい男)であると幸太郎に助言するが、彼は鈍くて自覚がない。

 

 柚子も幸太郎に未練はあるのだが、幸太郎が柚子が水をむけても「なんでも相談してくれ」と彼女の真意をイマイチ推し量ろうとはしないので、彼女も積極的にはなれず、といって彼と本当に縁を切る気もない。

 

 そんなか進行中の瑛二と葉菜との結婚話。二人は結婚前に同棲し、瑛二の祖母タエ(江波杏子)が残した京野菜の畑を受け継ぎ、葉菜は瑛二を手伝いながらパンをこれからも焼き続けたいという。

 

 しかし、葉菜の実家で染色業を営む父親にはまったくこの話はしておらず、また葉菜の父親は誰もが知る頑固者で、とうていこの話しがスムーズに運ぶとは思えず、といったぐあいで2つの恋愛話は進んでいく。

 

 吉岡里穂が、相楽樹の代わりに柚子役をしてからか、この若者たちのエピソードが恋愛モードになることはあるかな、と感じていたがその通りになった。

 

 既に今回で放送4回、彼らもそろそろ仕事とは別に自分の将来のことを考える時期に達している、ということはわかるがドラマパートがはじまったころの「修行」に対する彼らの真摯な姿勢が多少崩れてきたように感じている。

 

 特に柚子が陶芸作家としての父にまず認められたいと頑張っていた第一回を観ていたからなおさらで、その時柚子を演じていた相楽樹の結婚、妊娠での降板は惜しい。

 

 というのも相楽樹は恋愛体質的で小悪魔的な役柄が多い吉岡里穂ほど女を前面には押し出していなかったこともあって、仕事へ向き合い悩むという演技が様になっていたからだ。

 

 むしろ女に陶芸は無理だ、と父から思われていたことをはねのけたいと頑張る姿がよかった。もっといえば吉岡里穂は、陶芸に打ち込む職人、もしくは陶芸家には残念ながら見えない。

 

 さて、ドキュメンタリーパートは相変わらず京都の庭園、そして大阪の箕面の滝周辺にあるモミジの名所を紹介している。

 

 ドラマパートでもドキュメンタリーで紹介した寺や庭園でロケをおこなっていて、これは源孝志脚本、監督のいつもの手法。こうしたドラマパートとドキュメンタリーパートがシームレスになっているのが『京都人の~』特徴だ。

 

 といえば『久楽屋晴信編』当初からの名物である大原千鶴氏の京料理コーナーはちょっと様変わり。いままで千鶴氏と共演してきたNHKの松尾剛アナウンサーが出演していない。今回からは大原氏一人で彼女のアトリエで料理を作るという設定になっていた。

 

 料理をつくりながら千鶴氏と料理下手の松尾アナとの軽妙な会話が毎度楽しく、松尾アナが東京から広島へ移動してどうなったかと思っていたところだったが、二人の言葉の掛け合いがもう観られないとなるとものすごく寂しい。

 

 ドキュメンタリー部分のナレーションも伊藤敏江アナからフリーでNHKBSと契約している笠井美穂アナに交代していて、京都らしさをしっとりと語ってくれていた伊藤アナの優し気で丁寧な口調が聴けないのかとこれも落胆している。

 

 ナレーションといえばドラマ部分は幸太郎の師匠である庭師の十五代目観山清兵衛役の石橋蓮司が担当している。

 

 彼はやはり源監督が演出している大原千鶴氏の番組『あてなよる』のナレーションも担当、そのまま今回から一人になった千鶴氏の京料理コーナーナレーションも行っている。源監督とは付き合いが長いようである。

 

 その清兵衛が、番組終盤で庭仕事の最中に倒れた。さて次回はどんな話になるのだろうか。また半年か、一年後の放送を待ちたい。