手を引かれてエレベーターを降りる。
そのまま連れて行かれるように歩き、止まったのはソンジェさんの部屋の前だった。
「今夜は帰したくないから」
カードキーで開錠する音がした。
「ま…、待ってください!」
廊下に響いた自分の声に驚いた。
「こんな…酔った勢いみたいなの…、ダメです」
「俺は酔ってないよ」
「わ、私が。あんなことしたから」
「これ?」
ソンジェさんが肩に目をやった。
「驚いたけど、俺は嬉しかったよ」
その言葉に彼を顔を見た時、エレベーターホールの方から人の声が聞こえた。
「入って」
返事をする間もなく、部屋に入れられた。
閉じられたドアに、背徳感を感じた。
誰に咎められるわけでもないのに、息を潜めて声が通り過ぎるのを待った。
ソンジェさんの肩がすぐ目の前にある。
薄暗く静まり返った部屋に、私の心臓の音だけが響いている気がした。
賑やかな男女の異国の言葉が、近づいて、やがて遠ざかっていった。
「…グァンス社長じゃなかったね」
私達は顔を見合わせてクスクスと笑った。
笑い声が消えても、彼は目の前に立ったまま解放してくれない。
落ち着かずに身じろぎした瞬間、彼が顔を寄せた。
「…好きだよ」
耳元の告白に驚いて顔を上げると、濡れたように黒く光る瞳が私を見つめていた。
「帰らないで」
懇願するような言葉に、私は背伸びをすると彼の肩口に唇を押し付けた。
その答えが合図となり、彼がおもむろに私の…
『おい!おーーーーーーい!』
我に帰ると、グァンス社長が画面の中にいた。
『お前、今俺のこと忘れてただろ』
「えっ、まさか。そんなわけないじゃないですか」
『カメラで映ってるんだから、バレバレなんだよ。一人でニヤつきやがって』
…マジですか。
恥ずかしくなり麦茶に手を伸ばすと、すぐそばに置いていたスマホが鳴っていることに気付いた。
相手は、あの日朝まで一緒にいたひと…。
『…ソンジェさんとうまく行ったってことか。
その顔見りゃ一目瞭然だな。
まぁ、お前が幸せなら、俺もハッピーだし…って、何電話出てんだよ!
話聞けぇぇぇぇぇ!!!!』
「もしもし?ソンジェさん?…え?今?
社長とZ○○M中ですけど。
なんでって…、招集ありましたよね?
…え?ない?」
振り向くと、社長の目が泳いでいる。
ちょっとどういうこと!?
「ごめんなさいソンジェさん。すぐかけ直します!」
私は電話を切ると、パソコン画面に向き直る。
『…ソンジェさんと、幸せになれよ?』
「社長!何言ってるんですか!
この招集、まさか、私にしかかけてなかったんですか?」
『お前とソンジェさんがうまく言ったかどうか、聞きたかったんだよ!
こんなこと会社で聞けねーだろ?』
「だからってわざわざ…」
『…お前の顔見てちゃんと聞きたかったんだよ』
グァンス社長が呟くように言った。
「社長…。じゃ、これからデートなんで。
もう切っていいですか?」
『おい!』
そう言いながらも、社長の顔は優しかった。
『幸せそうだな』
「…社長も早く幸せになってください」
『上から目線かよ!』
その時、再びスマホが震えた。
「ごめんなさい!幸せ、満喫してきます!」
『おい!』
「じゃ、また!休み明けに!お疲れ様です〜」
容赦なくログアウトしてノートパソコンを閉じると、すぐにメールを確認する。
『ナムが待ってるよ』
「…誰?」
生温いままの麦茶を飲み干し、私はすぐに発信ボタンを押した。
end.
一旦終わります。
けど、まだ続き書けそうな感じ(笑)
またいつか。
このグァンス社長好きなんですよ〜
けど、ソンジェさんとくっついちゃったので今後の登場は難しいか?( ̄▽ ̄;)